旅 日 記


裏磐梯から日光へ


裏磐梯 2001年10月16日(火)


 昨年、隣のおばあさんが日光へ行ったそうな。その話を聞いたカミさん、どうしても行きたいと言い出した。もちろん私には何の異論もない。そこで彼女の三連休にあわせ計画を立てた。三日間なら裏磐梯にも行けるかな? ちょうど紅葉も見ごろだろうし・・・。

 だが天気が下り坂らしい。それも17日には雨が降ると言うではないか。出発を一日早めれば帰りの日の雨だけを覚悟すればよく万々歳なのだが、15日はどうしても休めないらしい。いつもの通り全く予約はしていないし中止するか? テレビの全ての局の天気予報とにらめっこ。しかしどうにもならず、悩ましいことこの上ない。最後は女王様の鶴の一声。「雨でもええさかい、行く!」

 仕方なく15日の夜10時半に出発するにはしたが磐梯山と日光はあまりにも遠い。それゆえ、どうせ行くなら天候に恵まれたい。私には苦い経験がある。40年ほど前に行った裏磐梯は雨で磐梯山が一目も見られず、その数年後日光へ行ったときは雨と霧で華厳の滝の音だけを聞いて帰った。

 深夜の国道161号線は間も無く北陸自動車道の敦賀インターチェンジに差し掛かろうとしている。この旅行をやめて引き返すなら今だ。しかしとなりで軽く寝息を立てている彼女をガッカリさせるわけにはいかない、と通行券を取った。もう後戻りは出来ない。

 深夜の北陸道は通行量が少なく、いつもの通り仮眠を取りながら・・・。名立谷浜サービスエリアで高速道路でのガソリン補給初体験。また新潟に入ってからの距離の長いこと・・・。

 ようやく新潟中央ジャンクション、いよいよ磐越自動車道である。周りはうっすらと明るくなってきた。頻繁に出てくる 『会津』 の文字に何となくうれしく感じ、その余韻に浸っているうちに磐梯山サービスエリアに到着、時計は7時を指していた。ところが目の前の磐梯山は何のことはない、どこにでもあるような普通の山じゃん。

 猪苗代磐梯高原インターチェンジで高速道路を離れスカイラインの入り口、高湯温泉を目指し国道を福島方面へ。30分も走っただろうか、磐梯吾妻スカイラインへの標識が現れた。案外近いんだ・・・。

 ところが少し登ると左 磐梯吾妻スカイライン、右 福島の標識。なに? 右に福島? 昔、磐梯吾妻スカイラインへ来た時には福島からバスに乗ったけど・・・少し変だが・・・まあ、いいっか・・・。

 料金所を過ぎ、高度が上がるに従い美しく化粧をした山々が出迎えてくれた。山の向こうに山があり、それがどこまでも続いている。その山々が見事に色付き、その紅葉の様は錦織り成す・・・などとの形容をはるかにこえている。私の貧弱なボキャブラリーではこの美しさを表現することは出来ない。

 「わ〜あの山・・・わ〜こっちの谷・・・わ〜きれい・・・。」 と、はしゃぐカミさんにつられ、ついついキョロキョロキョロキョロ。当然カーブの多い山道である。まだ朝も早く、車が少ないから良いものの休日ならば・・・渋滞は保障できる?

 天風境の駐車スペースに車を止め、今度はじっくりと、改めて素晴らしい紅葉を楽しませてもらった。空には明るい雲ながら青い空は望めず、風はさほどでもないのに日が当たらない空気はやはり冷たい。

 登るに従い、周りの木々や山の姿が変わってきた。やがて高原に出たらしく道も平坦になり、濃い緑の青森トド松の林を抜けると浄土平に到着。しかし、何か変だ。左にあるはずの吾妻小富士が右にある。どうして? 記憶違い? いや地図を見ても左にあるが・・・まあ、いいっか・・・。あの上まで登り、すり鉢状の火口を見たのを思い出したが、今日は天候も冴えず風も強そうだし人影も車もない。これは登るのをあきらめよう。

 あの山が一切経山かな? やがて車を止めるな!・・・との立て看板があり、荒涼とした雰囲気に硫黄の臭いが漂ってきた。ここが天狗の庭か? なるほど、ガスで目に涙がにじむ。

 見下ろせばススキの向こうに遥かな山並み。振り返って見上げれば美しい山と素晴らしい紅葉。やはり東北の紅葉はスケールが違う。思い切って来てよかった〜。

 何度も何度も道路際に車を止める。だが、登ってくる車がずいぶん多くなってきた。やがて料金所。なに? 高湯温泉? 計画ではここから登るつもりであったのだ。そうか、土湯から逆に走っていたのか。これで全てが理解できる。知らないところとは言えこの馬鹿さ加減。あきれるやら照れるやら、これは面目ない。そうと解っていれば料金所の手前でUターンという手もあった?

 気を取り直し今度は国道を土湯へ向かう。道路沿いの林や周りの山も十分美しく色付いてはいるが、あれだけの紅葉を見てきただけに・・・。道の駅土湯から土湯トンネルを抜けると磐梯吾妻スカイラインの標識が現れた。なるほど、納得・・・。


 ほどなく磐梯吾妻レークラインの標識。雲の切れ間から少しばかり日の光が差し込むといっきに明るくなり、ブナの森が黄色に輝きだし、紅葉も・・・。左に秋元湖が見え隠れしている。

 中津川渓谷は橋の上から眺め、右に大きな桧原湖と小さな小野川湖が仲良く見える三湖パラダイスの展望台を過ぎると間も無く磐梯高原、裏磐梯である。喜多方ラーメンとそばの軽い昼食。

 さて五色沼だが、五湖すべてを回る時間はない。そこで毘沙門沼だけにしようと食後の散歩。少し色付き始めたばかりの毘沙門沼は曇り空のせいか水の色も変わったところは見られず、何だか冴えない雰囲気。

 だが対岸の森の上の磐梯山は今日の朝、磐梯山サービスエリアから見たそれとは全く別の山ではないか。しかし写真で見ていたイメージよりは遠くに見え小さく感じる。でもその山の姿は爆発時の凄まじさを想像するには十分すぎるほどの景観であり、迫力満点。ボートが浮かぶ湖面にはたくさんの錦鯉に混じり、1メートル以上の大きな鯉にびっくり。

 少しピークは過ぎているのだろうか? 磐梯山ゴールドラインの紅葉は黄色よりむしろ茶色に近く、黄金色に見える。「せやからゴールドラインて言うんやろ。」 とカミさん。上手いこと言うじゃん。

 やがて林を抜け、見晴らしがよくなった。今度は磐梯山を横から見ることになる。頂上の少し下から谷底までの巨大なキャンバスにあらゆる絵の具を使い、最高の技巧を駆使して描かれた絵画のようだ。この大自然を創造された神様が描かれた? これはまさに芸術じゃん。わ〜、きれい・・・とだけ言って、さすがの女王様も次の言葉が出てこない。

 この磐梯山ゴールドラインは絶景のポイント、ポイントに駐車場も設置してあり、滝もいくつか見え、素晴らしい道路ではないか。やがて猪苗代湖がぼんやりと見えてきた。名残惜しいが磐梯山をあとに会津若松を通過。今日の宿に決めた塩原温泉へ急ぐことにした。

 道中、塔のへつりに寄り、珍しい岩の芸術にも触れ、自然の力の偉大さと不思議さを体感。

 塩原が近くなり、とうとう雨が落ちてきた。周りは薄暗いが時間は4時である。塩原の紅葉はまだまだ先のようで、緑が美しい箒川沿いの道を少しばかりドライブしてから塩原温泉に宿をとる。


那須から日光へ 2001年10月17日(水)


 朝起きるとやはり雨である。窓からは山にかかる雲が目の高さに見え、手が届きそうだ。仕方がない。今日は東照宮だけを見て帰るとしよう。

 走り出した途端、何を思ったのか突然、那須の御用邸を見てみたい・・・と言い出した。日光とは逆の方角だが・・・しかし、もはや急ぐ理由も無くなっている。ならば寄って行くか?

 雨にもかかわらず、なぜか澄み切った水が流れている箒川。吊り橋も何箇所かあり、他にも見所は多そうだが、何分この空模様ではどうにもならず、道の駅湯の香しおばらから那須高原へ向かった。

 牧場が続く道路沿いの畑の土は真っ黒じゃん。やはりここは火山地帯である証だろうか。コスモスの花が雨に打たれてかわいそう。だが静かな森の木々は雨に洗われ、生き生きと鮮やかな緑に蘇り、しっとりと美しく落ち着いた雰囲気を漂わせている。その緑に溶け込むようにレストランや博物館などがあまりでしゃばらず、控えめに並んでいるのがとてもいい感じである。

 ほどなく一軒茶屋前の交差点。地図によると御用邸はこのあたりだが、いくら探してもわからない。交差点の前にある無人の交番と少し林に入ったところの細い地道の入り口にある進入禁止の標識がどうもそれらしい雰囲気だが・・・。御用邸と思われる林に沿って走ってみるが、すぐにゴルフ場の看板。そしてその先には美しい林のトンネルが続いていた。仕方がない。これは諦めよう。

 可愛い名前に誘われて向かったりんどう湖は遊園地で人影もなく、結局那須高原のセンスの良さが感じられる佇まいと、しっとりとした空気を味わっただけで再び来た道を引き返す。なんのこっちゃ!


 塩原温泉は相変わらず小雨が降っていた。どうせ霧で見通しは悪いだろうが、日塩もみじラインを走ろうか。黄色に染まった林の中は早くも濡れて落ちた葉っぱが道路の幅を狭くしている。登るに従い枯れた木が多くなってきた。早くも晩秋の気配?


 だが峠を越え、下りにかかると視界が開け、思いもかけず見事に紅葉した山々が目に飛び込んできたではないか。あいにくの雨にもかかわらず割と遠くまで見通せる。昨日見た磐梯吾妻スカイラインに負けず劣らぬ風景に、通る車も少ないのをいいことに度々車を止める。

 

 色鮮やかなもみじ越しに流れる美しい滝は太閤おろしの滝と言うそうな。

 それからなお下って行くと、今度はまだまだ緑色をしたもみじの並木がどこまでも続いていた。もみじラインとはよく言ったもので、その名称に納得・・・。これらのもみじが色付くのは当分先になりそうで、頂上から麓まで、長期間紅葉狩りが楽しめるのだろう。


 鬼怒川温泉は通過。今市から杉の大木が見事に並ぶ日光街道を走り日光東照宮へ向かう。しかし駐車場がわからず人と車が多い中を20分ほどウロウロウロウロ。ようやく駐車して早速入場券を買い、言われるまま前の庭園へ入った。だが何か変。よく見てみると入場券には二社一寺共通拝観券と書いてある。しかし予定は東照宮だけだし他にはあまり興味もなく、その上この雨である。なに? 東照宮の駐車場はもう一つ奥? 仕方がない、傘を差し水溜りを気にしながら10分足らず歩いて改めて券を買い直す。二人で600円の余分な出費にケチな、いや無駄使いが嫌いなおばはん、少しオカンムリ。

 40年近くも経つとやはり色もあせるのだろうか? 若いときに見た陽明門はもっときらびやかですごいと感じた記憶がある。

 ところが目の前の建物は思ったほど派手さはなく、かえって重厚な趣さえ覚えるのは気のせいか? あるいは歳のせい? だが絢爛豪華に装飾された建物やそこに飾られているたくさんの彫刻などはさすがに美しく、素晴らしい。

 雨を気にしながら三猿や眠り猫、薬師堂の鳴き龍など、一通り見終わった女王様は何か浮かない顔をしている。

 「あんなに来たかった日光の東照宮はこの程度のもんやったんかいな。皆が言うほどたいした事ないやん。」

 以前から彼女は神社仏閣とか歴史上のもの、美術館や博物館、古い町並みなどにはほとんど興味を示さない。美しい自然の山や海、そしてそこに咲く美しい花、それとおいしい食べ物、特に新鮮な魚と甘いものがあれば文句は言わない。私もほぼ同じであり、良くしたもので我々は似たもの夫婦である。

 旅は人それぞれの目的と人それぞれの楽しみ方があって良いものである。我々とは反対にお寺参りや歴史散策などを好む人も多い。当たり前のことではあるが今日、改めて今までに行ったところを思い起こし、初めて気が付いたような新鮮な気分であった。


 国道沿いの喫茶店で遅い昼食。雨のいろは坂を登るが周りは何も見えない。明智平も霧の中。中禅寺湖の湖畔に着き、どうやら雲の上に出たようで、少し景色が見えてきた。

 念のため華厳の滝へ。駐車場には結構車が止まっているが、また音だけ聞きに行っても仕方がない。ならば奥日光へ向かうとしよう。

 中禅寺湖の手前の大きな鳥居のところで半月山展望台への小さな標識。ガイドブックにも載っておらず、事前の知識は全くなかったのだが、なぜか引き込まれるように自然にハンドルを左に回していた。

 土産物店や食堂、旅館などが立ち並んでいる割には人影も少なく、少し寂しい湖畔沿いの道は立木観音、遊覧船の乗り場を経て中禅寺湖スカイラインへ続いている。

 色付いた木々の間から時折見え隠れしている中禅寺湖。雲の中から突き出た山々と、その下に広がる深い谷には鮮やかな紅葉。通る車も全くなく、キョロキョロ、キョロキョロ。道端に猿を発見。びっくりしたが猿も驚いたらしく、谷の方へ逃げて行ってしまった。


 中禅寺湖展望台からは穏やかな男体山、その広い山裾には大きな中禅寺湖と湖岸の紅葉が見え隠れしている。雲の流れは極めて速いが見通しは良くない。

 終点の半月山展望台から見下ろした山はぼんやりとはしているが絵の具、いやペンキの缶をひっくり返したような色に染められていた。今までにこんなに近くでこんなに美しく色付いた山を見たことがなく、寒さに震えながらしばらくじっと動けず。もっと見ていたいが、小雨に差した傘を吹き飛ばさんばかりの強風がそれを許さず、後ろ髪を惹かれる思いで展望台をあとにした。


 中禅寺湖を左に眺めながら湖畔をドライブ。竜頭の滝にも立ち寄り、枯野が広がる戦場ヶ原を横切り、硫黄の臭いがたちこめる湯元温泉に着いたのは4時を過ぎ、早くも夕暮れが迫っていた。さて、どうする?

 このまま帰ろうか? しかし日光の素晴らしい紅葉の余韻がまだ体に残り、何だかボ〜としている。ここは無理を避けてゆっくり体を休めたい。取りあえず観光案内所へ。

 しかしほとんど満室だそうな。今日は何曜日? だが粘りに粘って何とか一部屋を確保。相変わらず降り続く小雨と少し強くなった風がホテルの前の木の葉を散らしていた。ロビーでお茶の接待をしてくれた女性が、お客様のお気持ちが通じて明日は雨もやむでしょう・・・と決まり文句を言ってはくれたが、天気予報は関東一円、明日も雨だそうな。


日光 2001年10月18日(木)


 カーテンを開けると幸運にも雨が上がっている。雨に打たれながらの露天風呂も風情があってよいものだったが、今朝は曇り空を見上げてのんびりと朝風呂を楽しんだ。上気した顔をして戻って来たカミさんが、もう一度半月山展望台へ行こう・・・と言いだした。ならばと急いで支度をし、7時30分からのバイキングの朝食を済ませ、すぐに飛び出した。


 中禅寺湖スカイラインを登り始めるが、今なら華厳の滝が見られるかも・・・とUターン。ようやく見ることが出来た華厳の滝は雨の後でもあり水かさも多く迫力満点。朝のさわやかな空気と、しっとりと霧のように降り注ぐ水しぶきがなんとも心地良い。そんなに広くない空間だが、見上げる滝は雄大で荘厳な雰囲気をかもし出し、不思議と気持ちが落ち着く。帰りのエレベーターの中は林間学校や修学旅行に来ている元気な小学生でとても賑やか〜。

 半月山展望台では昨日見た美しく紅葉した山は残念ながらほとんどが雲の中。だが、反対側には一面に雲海が広がっているではないか。それも手が届きそうで、歩いて行けそうじゃん。これはこれで言うことはなく、再度ここまで来た甲斐があると言うものだろう。

 今日はゆっくりと戦場ヶ原展望台からの早くも晩秋の気配漂う風景を楽しみ、光徳牧場へも寄り道。

 心残りではあるが素晴らしい日光の余韻を振り払い、意を決して湯元から金精道路へ向かい、今までいた穏やかな日光とは似つかわしくない荒々しい赤茶けたガレ場の急な坂道を登り始めた。金精峠から奥日光最後の景色を目に焼付けトンネルへ入った。


 ガラッと変わった雰囲気の中、菅沼、丸沼を横目にカーブの多い下り坂を過ぎるとやがて片品村。大根一本50円の看板がかかった産地直売の店が並んでいる。カミさんのパート先は八百屋だが、車一杯買って帰れば儲かりそう。

 休憩を兼ね吹割りの滝までお散歩。ナイヤガラの滝の超縮小版のような珍しい滝。いやこれは川? 世の中には見てみなければわからないことも多い。カミさんは干ししいたけの安さにつられ、つい買ってしまった・・・と苦笑いしていた。

 椎坂峠からの眺望は雲が多くて望めず。道の駅白沢の辺りは真っ赤なりんごがたわわに実り、その重さに今にも折れそうな木がずらりと並んでりんご狩りの客を待っている。

 ようやく沼田を通過。まだまだ緑ばかりの吾妻峡を横目に長野原から嬬恋村へ。

 帰りを急ぐあまり、バイキングの朝食の食べすぎといつもの通りカミさんが子供の遠足のように持って来たお菓子をつまみながらのドライブで昼食をとるタイミングを逸してしまっている。

 鳥居峠は霧の中。上田から長門町を経て新和田トンネルを抜け、下諏訪が近くなり日が暮れた。

 岡谷から中央自動車道を利用。恵那峡サービスエリアでやっと食事にありつけた。時計の針は7時30分を指している。

 11時過ぎ、1820Kmの長い旅が無事終了。天気はいまいちであったが、素晴らしい紅葉に出会え、今は思い切って行ってよかった〜・・・としみじみ思える。

 こうなれば来年の紅葉狩りは十和田湖か?


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