旅 日 記


高遠の桜 2002年4月10日(水)


 桜の時期に 『天下第一の桜』 で名高い高遠を訪れることが長年の夢であった。一週間前の問い合わせでは見ごろは10日ごろだそうな。そこでカミさんの休日に合わせ10日に行こうと決めていたのだが何分今年は異常でもあり、少しばかり気がかりである。

 念のためもう一度問い合わせ。一部散り始めていますがまだまだ十分見ごろです、出来るだけ早くお越し下さい・・・どうやら何とか間に合いそうだ。

 深夜の出発に備え、まどろんでいた8時20分ごろ、隣のおばあさんから電話。

 「今NHKで高遠の桜が映ってるで〜。」

 歌謡コンサートの生中継で歌手の石原詢子が満開の桜をバックにきれいな橋の上で歌っている。安心して日付が変わり出発。


 トラックのテールランプをひたすら見つめ、北を目指してハンドルを握る。深夜の国道19号線はまさに大型車のオンパレードである。塩尻に差しかかりようやく夜が白み始める。雲が多く塩尻峠から見た諏訪湖はぼんやりと霞んでいた。

 6時20分下諏訪温泉、湖畔の湯へ到着。朝風呂を浴びると汗と一緒に眠気と疲れも吹っ飛んだ。早朝にもかかわらずかなりの盛況である。ほとんどの人は出勤前の一風呂だそうな。なんとうらやましいことよ。

 受付のおばさんに諏訪大社近くの水月公園の桜が見ごろで素晴らしいと教えてもらったが、高遠は車が混む・・・との言葉が気にかかり、先を急ぐことにする。

 道中、こちらは最初から予定していた上諏訪の高島城公園へ。飾りっけがない、こじんまりとした高島城を見上げる公園にはさくらが満開である。高い雲が以外に明るく、しっとりとした早朝の雰囲気に華やかな桜の花がうまく溶け込み、風呂上りのさっぱりした体をさわやかに包み込んでくれ、心も軽くのんびりとお散歩。

 ところどころでは昨夜の花見の宴の盛り上がりを想像させてくれるが、ゴミなどはきれいに片付けられている。なんとマナーが良いことよ。お堀に沿い、水面に触れんばかりに垂れ下がる見事な桜・・・まるでしだれ桜のよう・・・これは朝からとても良い気分ではないか。

 杖突峠からの眺望はどんよりした天気で残念ながら望めず。高遠が近くなり、あちらこちらに桜の木・・・それもそれらが全て満開である。


 高遠城址公園の駐車場に到着。係員は満車なので8番の駐車場へ回れと言うが、そこはどこ? ウロウロウロウロ。後ろから次々と追い越して行く車について何とか到着。ヤレヤレ・・・。

 その駐車場にはまだ半分くらいの余裕はあったが、それにしても大変な車の量である。時間はまだ8時を20分ほど過ぎただけなのに・・・。土産物屋さんなどが並ぶ中、階段を登って行く。ほどなく高遠城址公園の入場口。

 あでやかな少し濃い目のピンクの桜の軍団が迎えてくれた。 『タカトウコヒガンザクラ』 と言うそうな。やはり少し遅いのか、中には生気がない花も見られる。遠くには雪を被った南アルプスの峰がぼんやりと見えていた。

 南口ゲートから入った場内の公園ではたくさんの人が散歩をしたりカメラを構えたり・・・大変な賑わいであるが園内が結構広く、あまり気にならない。ぐるりと一回転。周りは全て桜の花である。花の向こうに花があり、外の景色が良く見えない。場所取りのシートが敷かれ、早くも弁当を食べている人がいる。

 公園のほぼ中央に昨夜テレビに映っていた桜雲橋とその先に問屋門があり、やはりこのあたりが一番風情がありそうだ。素晴らしい花の饗宴を十分に堪能。そして大満足して高遠城址を離れた。

 先日の斐伊川堤防の桜並木や常照皇寺のしだれ桜・・・まだまだ少ないが今までに見てきた桜、サクラ、さくら・・・。それぞれが飽きさせず個性豊かにいろいろな顔を見せてくれる桜の花。日本人でよかった〜・・・としみじみ思える季節である。

 この高遠城址を一通り歩いて入場口が4箇所あり、それぞれに駐車場があることがわかった。ピーク時にはそれでも足りず、離れたところの駐車場からシャトルバスが出るそうである。


 美和湖畔の道の駅南アルプスむら長谷で焼きたてのパンをゲット。分坑峠まで足を伸ばすが、見晴らしはいまいち・・・。

 ところが駒ヶ根へ向かう県道からは曇り空に雪を被った中央アルプスの峰々が見えているではないか。あまりの美しさに車を止め、しばらくはジッと動けず。

 これなら駒ケ岳ロープウェイで登っても大丈夫かも? そこで千畳敷ホテルに電話。曇り空ですが富士山が見えています・・・ならば行って見よう。

 駒ヶ根高原の菅の台からはこれから登る雪山が見え、桜が咲いていた。これもまた素晴らしい。車を置き、乗り込んだしらび平へ向かうバスは急な坂道の曲がりくねった一車線のバス専用道路を大きなエンジン音を響かせてゆっくりと登って行く。

 まだ多くの残雪が見られる海抜1660mのしらび平から2611mの千畳敷まで、ロープウェイは8分足らずで運び上げてくれる。眼下には町並みと、そのはるか上に南アルプスの長い山脈・・・これはまるで墨絵の世界である。

 終点の千畳敷の高度と、その高低差950mは日本最高だそうな。さすがに真冬用のダウンジャケットを着ているにもかかわらずかなり寒い。まずは棟続きのホテルの食堂へ向かった。

 大きな窓越しに真っ白な千畳敷カールと、その上には真っ黒な岩が突き出している宝剣山の美しい眺めに見惚れながら名物のソースカツ丼の昼食。これがまたうまい。


 建物の外は雪が凍りつき、とても滑りやすくスニーカーではどうにもならない。間近で見上げる宝剣山はまだまだ真冬の様相を呈し、冬山の威厳と厳しさを誇示している。

 谷を前にした建物の反対側に出ると冷たい風が強く、耐えられないほどの寒さである。はるか遠くに連なる南アルプス山脈のほぼ真ん中の峰の上に、小さくて黒い富士山が遠慮がちに顔を覗かせていた。

 見え隠れしている中央アルプスの雪山を右に眺めながら飯田へ向かう。その道中は一面梨畑とりんご畑が続き、そのどちらも同じような白い花・・・それが全て満開である。

 その花たちがようやく顔を現してくれたお日様の光を浴びてキラキラと輝いている。これはふわふわと浮かぶ雲の上? ポカポカと暖かく、なんともメルヘンチックな別世界の趣に女王様の顔も輝いていた。

 早くも太陽が傾き始めた。あでやかな花桃の花が咲き、のんびりとした雰囲気の昼神温泉、日帰り入浴施設、湯ったり〜な昼神でゆったり、ほっこり。夕暮れ迫る妻籠宿は早くも店じまい。雰囲気だけを味わい、帰りを急いだ。


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