旅 日 記
富士山から房総、伊豆へ
富士山 箱根 九十九里浜 2003年9月8日(月)
カミさんの遅い夏休み、それも五日間である。新規店舗開設に伴い、請われて転勤したことにより勤務体系が変わり、週に二日の休日も連休ではなく、今までのように簡単に出かけることも少なくなった。電車通勤になったことにより時間がかかり、疲れも予想以上であろう。無理はしてほしくはないのだが、彼女の性格では何事も適当に出来るわけはなく、私の意見に耳を傾けるようなお方でもない。
当然どこかへ出かける予定らしく計画をたてるように言われていたが、どちらにせよ中途半端な時期であり、その上天候に恵まれなかった今年の夏の反動からか9月に入り真夏が戻ってきたようで、旅行をするにはあまり良い環境とは言えない。
とりあえず長崎、雲仙、天草を巡る北九州の旅、ビーナスラインから美ヶ原、軽井沢、草津、志賀高原、黒姫高原のコスモスを巡る信州の旅、それと富士箱根、房総、伊豆を巡る旅を提案したところ、彼女は富士箱根、房総、伊豆を選択。だがここにきて関東地方の天気回りが良くない。彼女が一番楽しみにしている富士山も見えないかもしれず、不安の多い出発である。
いつもの通り国道と深夜無料のバイパスを走る予定であったが、珍しいことに2万円分のハイウェイカードを買ってきてくれた。年齢のことを考え、少しばかり気遣ってくれたらしい。東名高速の富士川サービスエリアで仮眠を取るうちに夜が白み始める。天気予報通り雲が多く、富士山の姿はない。
やはり高速道路は早く運転も楽である。気のせいか深夜の東名高速は通行量が少ないように感じた。最近、民主党の菅代表が高速道路の無料化をうたい文句にしているようだが、そうなれば通行量も増え、当然事故も多くなる。
今日も通ってきた名阪国道は制限速度が60Kmの自動車専用の国道だが、そんな速度で走っている車など皆無だし、通行量も非常に多く、特に深夜は高速で走るトラックに恐怖すら覚える。またたまに覆面パトカーもみられ、つかまれば何キロオーバーになるのか? 考えるだけで恐ろしい。
当然大きな事故も多く、道路工事を含め一度渋滞するとそれは半端でない。高速道路が無料になることはほとんどが名阪国道のようになることを意味し、それが良いことか? 単純に判断出来ない気もする。せめて半値にでもなればずいぶんと利用しやすくなり、我が家の大蔵大臣もあまり文句を言わなくなるかな?
富士山スカイラインも霧の中。それもだんだん濃くなってきた。仕方がない。ここまで来たのだから一応富士山の5合目までは行ってみよう。
それは突然のことであった。霧が晴れ、目の前に真っ青な空、そして深い森の上に赤茶けた色の穏やかでなだらかな山容の富士山が現れた。こんなことが起ころうとは・・・信じられない気持ちと感謝する気持ち・・・これは奇跡か?
まだ朝も早く、通る車もほとんどないことを良いことに道路際に何度も車を止める。
標高2400mの5合目には結構たくさんの車が駐車してある。風はほとんど感じないが半袖では寒すぎて、慌てて長袖を重ね着した。周りに人の姿は見られないが若者が一人下山してきた。聞けば9合目まで登ってきたそうな。と言うことはこの車の人は全て登山者ということ?
そう言えば今まで見ていた富士山よりここからの富士山はすごくなだらかに見え、簡単に登れそうだ。黒くて小さな石を一面にばらまいたような斜面が遠い昔にあった火山活動を思い起こさせてくれる。その斜面に点在する美しいまだら模様。すぐ近くにも同じものが見られ、低い小さな木と枯れた葉が素敵な光景を演出しているらしい。
下界には先ほど突入し、突き抜けてきた霧が雲海となり、目の前に広がっている。それが日の光に輝き、この上ない光景に心が躍る。ふわふわといろいろな顔を見せてくれる雲に飛び込み、抱かれて寝てみたい気分である。
吸い込まれそうな青い空、穏やかで美しい富士山、それとこの素晴らしい雲海・・・これ以上ない光景に、
「来て良かった〜。」
と我が家の女王様・・・。
と言うことは当然のことながら箱根は雲の中である。スカイラインからの芦ノ湖も全く見ることはできない。富士山が見えない箱根は魅力は無く、予定していた駒ケ岳ロープウェイを諦めることにした。
大学駅伝の箱根の山登りの過酷さに改めて驚かされ、到着した箱根ベゴニア園は今まで見たものより規模はかなり小さいが、可憐に咲く花をを見て心を癒すには十分であろうか。
(箱根ベゴニア園は2011年7月に閉園。)
観光客が溢れる湯本でそばとうどんの軽い昼食。あとは西湘バイパスを皮切りに有料道路をフルに利用して、一路房総半島を目指した。
やがて湾岸線へ。助手席ではいつもの通り気持ちよさそうに熟睡中。間もなく横浜ベイブリッジである。
「横浜港やで〜。」
しかしわずかに眺めただけでまた眠ってしまった。高いビル群、そして湾内には多くのクレーンなどが見られるが、これ位なら大阪の湾岸線のほうが景色は良さそう? やはり見所は夜景なのだろうが阪神間の夜景も捨てたものではない。
東京湾アクアラインのトンネルを抜け海ほたるに到着。やっと目覚めたおばはん、
「ここ、どこ? なんでもっと早よ起こしてくれへんかったんや!」
「それはないやろ〜。」
海ほたるは海上に浮かんだ巨大な船のようだ。海は穏やかだが曇り空に見通しはあまり良くない。食事どころや土産店なども多く、観光客も結構来ている。話のネタに一度は訪れても良さそうではあるが、これではリピーターを獲得するには少しばかり魅力が足りない?
この道路は何のために作ったの? 産業道路? 観光用? それとも生活道路? それにしては通行料金が3000円とは高くない? どちらにしても何か中途半端な気がした。
九十九里有料道路は海沿いを走っているのに防風林などで海がなかなか見えない。今日の宿、国民宿舎サンライズ九十九里が近くなり、ようやく大きな太平洋が目に飛び込んできた。ホテルに入る前に少しばかり海辺に寄ってみる。
広い砂浜にたくさんの車。多くの若者がサーフィンを楽しんでいた。それもそのはず、波が結構大きい。聞くとこれでも今日は穏やかだそうな。当然ここは海水浴場であり夏場は海水浴客と一緒だと言い、何か危険に思える。曇り空ながら海風が爽やかでとても心地良い。
このあたりは鰯が名物だそうな。そこで夕食に鰯の薄作りを追加で頼んだ。これ結構いけるじゃん。サービスで焼いてくれる鰯の干物も脂がのっていてとてもおいしい。たかが鰯だが、これは馬鹿に出来ない。
房総半島 2003年9月9日(火)
期待していた朝日だが雲が多く海から上がる太陽は見られなかった。だが通常の日の出の時間より15分ほど遅れて一面グレーの雲の間から覗いた少し控えめなオレンジ色の太陽・・・これはこれでまずまずの雰囲気・・・かな?
もう少し海が見たくて北へ向かうがほとんど見えず、仕方なく蓮沼海浜公園から引き返し南を目指す。九十九里浜はこれだけ長く美しい砂浜が続いているのだから何とか海沿いにドライブコースを作ればもっと人気が出そうに思えるが、いかがなものか? 少しもったいなくもあり、残念に感じるのは私だけだろうか?
仕方がない・・・と房総半島を一路南下する。
一宮町の海岸では早くもたくさんのサーファーの姿が見られる。今日は何曜日だったっけ? 若者たちよ、これで良いのか? どうも学生ばかりには見えないが・・・。
昨日から腕や背中に彫り物をした若者を良く見かける。彫り物などをしている人はその筋の人だと思っている私達が古いのか? どうしても彼らがそんな人たちに思えないが・・・。
たかが水族館だろ?・・・ならばいいかな?・・・と鴨川シーワールドはパスして一路南房総のフラワーラインを目指す。この時期は花が一番少ない季節でもありどうであろうか?
ここまで外房黒潮ラインというには少し名前負けの国道を走ってきたが、さすがに房総半島もここまで来ると大きな海を目の前にしての快適なドライブが楽しめ、心も軽い。天気もだんだん良くなり、太陽が強い光を投げかけて波もキラキラと輝き、暑さをしのぐクーラーの風も心地良く、これはこれで最高のドライブ日和ではないか。
カミさんは盛んに日焼けを心配し日の光を遮るのに苦労をしている。ソテツなど南国ムードも漂い始め、徐々に房総の魅力に取り付かれてきたようだ。
ローズマリー公園は洒落た感じの美しく整備された公園と教会のような売店がとても良い雰囲気で、かわいい花が咲いている花壇と周りの緑が良く調和も取られ、センスの良さが感じられる。
白浜フラワーパークは春先に比べれば花は極端に少ないのだろうが、それでも結構咲いている。しかし園内を歩いているととにかく暑い。その見返りは高い椰子の木越しに見えているキラキラと輝く太平洋。こんな海ならいくら見ていても飽きない。
房総半島もいよいよ南房総に差しかかり、海の美しさに誘われ、とにかく海岸線へ海岸線へ。どんな道であろうが海岸線へ。
これを群青色と言うのだろうか、本当の青と言うべきだろうか、穏やかで大きな青い海、南国のような明るい太陽、小さな波がその光に踊るようにキラキラと輝き、これ以上無い贅沢で幸せな、そしてとても良い気持ちにさせてくれた。
今日の宿の休暇村館山も海沿いにあり、ここならのんびり長逗留してみたい気分である。伊勢海老の料理にもおおむね満足。追加で頼んだとびうおのナメロウと鯵のサンガ焼き、少し欲張りすぎたかな?
伊豆半島 2003年9月10日(水)
早朝、雲の上に半分ほどの富士山が小さな姿を現してくれた。今の時期、見えるのはまれらしい。今日は下田までの予定だが、どれほど時間がかかるか全く見当がつかない。とにかく先を急ごう。
どうにか金屋港9時15分発のフェリーに間に合い、三浦半島の久里浜港へ。房総は晴れていたが、こちらは少し雲が多くなってきた。
湘南海岸をドライブ。関東の人の格好のドライブコースなのだろうが、曇り空のせいか海の色が何かさえない。昨日あれだけ青い海を見てきたところだけにどす黒い海に少しガッカリ。これは天候のせいだけだろうか? 長い海岸線、車の量はやはり多い。多少渋滞もあったがおおむね順調。やがて伊豆半島に差し掛かった。
今日のお昼は伊豆高原のぶどうの実西館でケーキとコーヒーだそうな。この旅行は朝食が全てカミさんお気に入りのバイキング。ゆえに食べ過ぎることは間違いない。東北の旅では体重が増えて帰ったことを教訓に今回のお昼は軽食にしようと決めていたそうな。それにしてもケーキ? カロリーのことを考えれば・・・?
ようやく雲が取り払われ、キラキラと輝く美しい海が目の前に広がってきた。東伊豆の海は房総の海とは雰囲気が違う? 女性的で優しい・・・そんな気がする。大きな伊豆大島、富士山のような利島、そして新島、神津島までもがぽっかりと浮かんでいるように見え、その間をつなぐ入道雲・・・これがその要因かな? それより、先ほど走ってきた湘南の海とは何かが違っているのは確かなようだ。
今日の宿も休暇村南伊豆。カミさんはどちらかといえば大きな海を望める館山のほうがお気に入りだそうだが・・・。今日はあわびのコース。またまたサザエの刺身と鯵のタタキを追加。今回は三日とも魚三昧でこれ以上ない贅沢に大満足である。
南伊豆 西伊豆 2003年9月11日(木)
今日も快晴、南伊豆の海は朝からキラキラキラキラ・・・気分よく石廊崎から西伊豆へ向かう。
道路際にさりげなく咲いている真っ赤なハイビスカス越しには美しい岩肌の海岸線と真っ青な海、そして青い空・・・これはたまらない。
石廊崎は20〜30分、山道を歩かなければならないそうな。しかし今日中には帰らなければならず、先を急ぐことにした。
松崎が近くなり突然青い西伊豆の海の上にぽっかりと濃紺の富士山がその全容を現してくれた。中腹にネックレスのような淡い雲の帯がたなびいている。かなり大きく見え、やはり美しい。
カーブを曲がるたびに富士山が見られるか? ゲーム感覚で楽しみではあるが、海沿いとは言えかなりの山道。しかし車の量はそんなに多くない。
さて堂ヶ島だが、ここまで来たからには遊覧船に乗り天空洞を見てみたい。だが青海島のこともあり嫌がるだろう。だが松島の遊覧船や昨日の東京湾フェリーには何も言わずに乗ってくれた。そこで、
「海も穏やかやし、ほんの20分ほど湾内の洞窟めぐりをするだけやから・・・。」
と半ば騙し、乗せることに成功。
外海に出ると当然波はうねっている。カミさんは緊張しているのか言葉数が少ない。珍しい岩肌やぽっかりと青い空が見えている狭い洞窟の中へ器用に船を操る20分の観光。ようやく陸に上がってホッ! だましてゴメンね。
松崎まで戻り、山道で天城越えをする予定だが、
「もう富士山は見られへんの?」
と何だかさびしそう。ここは罪滅ぼしにもう少し走ってみよう。しかしいくら走れども富士山は顔を見せてくれない。
とうとう恋人岬。これはおっさんとおばはんが来るところではない。数は少ないが、それでも4〜5組のカップル。いや待てよ。我々も一応はカップルじゃん。ん? しかし富士山も見えず、早々に退散。
ところが次のカーブを曲がった途端、より大きな富士山が現れた。ああ、よかった〜。しかし、ここまで来ると松崎へ戻るより土肥はすぐそこ? ならば湯ヶ島から天城峠を往復したほうが近いかな?
西伊豆バイパスから湯ヶ島を通り、浄蓮の滝に到着。下のほうから沢の音が聞こえているが急な階段である。途中出会った若いカップルに
「まだ遠いですか?」
「結構ありますね〜。しかし涼しいですよ。」
ならば頑張ろう。
浄蓮の滝は深い森の中の大きな岩を割ったように太く立ち昇る水柱のごとく、豪快に流れ落ちていた。若者が言った通り、涼しい風が汗ばんだ体を冷やしてくれる。近くには淡い緑のワサビの葉っぱの畑。これがワサビ田か〜。
しかしながら、下りがあれば帰りは当然登らねばならない。
「どこが涼しいねん。」
とカミさん、あの若者に八つ当たり。到着するや待ちきれなかったように早速ワサビソフトだそうな。当然のこと?
道の駅には帰りに寄ることにして、まずは天城峠だ。旧天城トンネルへ旧道を走ろうと曲がった途端、なに? 地道? それもひどいデコボコ道で車の底をすりそう・・・これヤバクナイ? と言うことで狭い場所でUターン。
結局新しいトンネルを抜け、河津七滝ループ橋を走っただけで引き返し、道の駅天城越えでおにぎりの昼食のあと、修善寺から一路沼津を目指した。
だんだん雲が厚くなり、今にも雨が落ちてきそうだ。当然のことながら富士山も雲の中。清水から日本平パークウェイへも寄り道したが、少しだけ駿河湾を望めただけ。有料道路が無料開放されていたから、200円を払わないで済んだのがせめてもの慰めか?
通称イチゴ街道のYAMAーROKUへ。もともとカミさんのこの旅行の目的の一つに三男の嫁から送ってもらった熊さん牧場のアイスクリームがあった。だがインターネットで調べ、道中にあるこのYAMA−ROKUにしたのである。
熊さん牧場や滋賀、永源寺の池田牧場のものも他のものも、ここのものも同じアイスクリームじゃん。味はそんなに変わらない? ネット上で味の論争をしているのを見るとやはり違うの? 肝心のカミさんはどの程度わかっている?
ドライアイスを6〜7時間分と注文した奈良からの客に少し驚いた店の人は、
「またお越し下さい。」
ん? そんなに簡単に言われても・・・。だがカミさんのことである。何を言い出すかわからない。
静岡インターチェンジから東名高速を利用、10時過ぎに無事帰りついた。走行距離は1680Kmにも及んでいた。
せっかく房総から伊豆への旅だったのに美しい夕日にも朝日にも出会えなかったのは残念だったが、美しい富士山を各所から、そしてキラキラと輝く房総の海、遠くに伊豆諸島が浮かぶ伊豆の海を眺め、その上、おいしい魚三昧。
当初あまり気乗りがしなかったこの旅だが、思い切って出かけて大正解。今回も良い思いをさせてもらった。やはり旅は良いものである。感謝、感謝。
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