旅 日 記


志賀高原から小布施へ


野沢温泉 志賀高原 万座温泉 2004年10月18日(月)


 10月も半ばを過ぎ、紅葉前線も南下中。しかし日本列島はこの夏の猛暑と台風の当たり年など自然環境には良くないことばかり。その影響は熊たちにも及び、あちらこちらに現れては世の中を大騒ぎさせている。これでは今年の紅葉もあまり期待できない?

 それに輪をかけたようにこの夏の北海道旅行で一区切りがついたのだろう、私の心の中にはぽっかりと隙間ができ、あまり出かける意欲がわかない。だが我が家のおばはんは絶好調、そんなことにはお構いなしで秋には紅葉狩りだと決め込んでいるようだ。

 特にここ数日はことあるごとにせっつかれ、ついに重い腰を上げざるを得なくなってしまった。もう一度磐梯山から日光まで行きたいらしいが、そう頻繁には休めない。一泊で行けるところとなるとやはり信州あたりかな?


 「おとうさ〜ん、熱うてはいられへ〜ん。」

 隣の女風呂からカミさんの叫び声!

 「熱い湯が好きやろが。せやけどちょっと熱いな〜、俺も水を入れて入ってんねん。」

 その私も熱すぎて我慢も限界に達している。朝9時過ぎの野沢温泉大湯、ぬる湯でこれである。となりのあつ湯などは手も浸けられない。後から入ってきたお年寄りは水道の蛇口の側にそろりと入ったが、すぐに体が赤くなっていく。彼女はとうとう浸かれなかったそうな。掛かり湯だけでは温もらず、風邪でもひかなければ良いが・・・。


 八日市インターチェンジから高速道路を利用して6時間ほどで野沢温泉に到着した。これから志賀高原、万座温泉から小布施を目指す予定。カミさん、帰りに上田で松茸料理だそうな。

 温泉街を散歩して麻釜にも立ち寄る。なに? 野沢菜の浅漬け? これはおいしそうだが持ち帰るのは難しい? 車のトランクにはいつも発砲スチロールの箱が積んであるが・・・。なに? 氷を用意してくれる? しかし二人暮らしゆえそんなに多くは買えない。まあ、220円のものを二袋かな? それでも良い? ご親切、心にしみる。

 麻釜で茹であがった温泉卵ととうもろこしをほおばりながらほっこりした気分でゆっくり、のんびりと歩く。お行儀が悪い? 歳を考えろ? しかしこれもまた楽しいではないか。今度はカミさん、温泉饅頭を買ってきたがその数、三つじゃん。二人なのにどうして?

 「おいしいな〜。これやったら一箱買うてきたら良かった。」

 「出来立ての熱々やさかいおいしいんやで。」


 野沢温泉には、いやこれから向かう志賀高原にも度々来ている。だがそれは随分昔で、それも冬ばかり。真っ白な世界ならどちらも隅々まで頭の中に入っている。スキーに夢中になっていた若かりし頃が懐かしい。

 さて今日の宿を確保しておくとしよう。熊の湯辺りでも良いが明日のことを考えると少しでも先のほうが良いかな? 万座温泉ホテルは満室だったが万座プリンスホテルには空室があり二食付きツインルーム、一人14800円だそうな。

 これからが本番である。温泉街を抜け、急な坂道を登って行くとやがて野沢温泉上の平。空も晴れてきた。だが、紅葉となると? 見どころは銀色に輝き風に揺れるススキだけとは少し寂しい。だが妙高山を筆頭に北信五岳が望めたから、まあいいっか。

 巣鷹湖でカミさんはたくさんの鯉や緋鯉に朝食用に持ってきたクロワッサンを与えだした。一つ、二つ、三つ・・・。オイオイ、それはオレの餌だろ?

 志賀高原を目指す。奥志賀林道はブナ林や雑木林が多くところどころで美しく色付いた木々も見られるが、こんなものかな? 我々がこれまで各地で見てきた紅葉は美しすぎた?

 キャンプ場が設置されているカヤの平高原に立ち寄ったのがちょうどお昼時。しまった! こんなのんびりしたところならコンビニで弁当を買ってくるべきだった。出会った人たちが手に何かを持っている。きのこ狩りの帰りだそうな。

 ようやくきれいな水が流れる雑魚川の向こうに美しく色付いた山が現れた。このあたりが奥志賀高原らしいが、白い山しか知らず・・・こんな風景だったんだ・・・。すぐ近くののホテル、およびロッジには何度宿泊したことだろう。

 一の瀬から高の原へ、志賀パークホテルのパン工房、ル・プレのパンが本日の昼食。そう言えばこのホテルにも泊まったことがあったっけ。

 蓮池からは東館山からの樹氷原コースがクッキリ見えている。あれがブナ平、と言うことはその下がジャイアント、そして七曲りか・・・何とも懐かしい。

 横手山を目指し、まずは田の原湿原の木道を歩く。周りを白樺林に囲まれて広がる草紅葉、その中の小さな地糖にお日様が輝いている。あれが両面リフトか・・・。このリフトも何度か利用したことがある。と言うことはその先に木戸池があったはず。

 わずかにさざ波が立つ木戸池、静か〜・・・。

 結婚した年の5月の連休、横手山に春スキーを兼ねて志賀高原を訪れたことがあり、その時木戸池温泉ホテルに泊まった。だが我が家の奥様、全く記憶が無いそうな。もっとも私も訪れたことしか覚えていない。こんなホテルだったっけ? 40年近く時がたてばお互いこんなものですか。

 熊の湯を過ぎると横手山への登りに差しかかった。大きな緑の谷にところどころ美しく色付いた木々が点在し、全山紅葉とはまた違った趣である。

 この際である。横手山にも登ってみるか? なに? スカイレーター? 当時はこんなのは無く、リフトを何本か乗り継いだのを思い出す。

 スカイレーターから乗り継いだリフトを降りると早くも雪だるまが迎えてくれた。三日前に降った初雪が残っているそうな。当日なら峠は越えられただろうか?

 横手山からは雲は多いもののなんとか見渡せる。雲の上に見えているのは浅間山だろうか。その左に小さく見えているのは富士山? 朝ならまだしも時間も時間、贅沢は言えない。

 何年、いや何十年ぶりの志賀高原・・・もっとも真っ白な世界しか記憶になく、この時期に訪れることができ、感慨もひとしおである。

 山田峠は標高が2172mで日本の国道、最高地点だそうな。

 眼下には大きな草紅葉とそこに輝く小さな池が見えている。芳ヶ平湿原と言うそうな。この道も、この峠も昔走ったはずだが、こんなの全く知らなかった。素敵なところじゃん。そう言えばその昔、見事に転倒して新雪に埋もれたことがある。その渋峠はこの近くかな?

 白根山の駐車場から歩くこと10分あまり。かなりの登りに息が上がる。観光バスがずらりと並び、登山道はかなりの混雑である。時間は4時少し前。草津温泉や万座温泉に泊まるにはちょうど良いコースと時間なのだろう。

 カミさん、エメラルドグリーンのお釜を見て30数年前のことをようやく思い出したようで、

 「そう言うたら志賀高原に来たな〜。ほんでここから軽井沢へ行ったやん。」

 いやはや・・・。


 さて我々もホテルへ向かおう。万座プリンスホテルにチェックイン後すぐに温泉へ。かなり混雑している。目の前に広がる景色を眺めながら濁り湯の露天風呂でのんびり、ほっこり。随分長湯になってしまった。

 夕焼けの空がえもいわれぬ美しさである。明日の天気は台風23号の接近もあり崩れるとの予報だが、そんな気配は全く感じられない。何とかもって欲しいものである。

 さて夕食。和食、中華、洋食と選べ、我々が選んだレストランでの洋食は前菜のオードブルにスープ、それと牛肉、鴨肉、魚のうちどれか一品のメインディッシュとデザートだけ。狭いツインルームと言い、このホテルで14800円ならこんなものかな?


松川渓谷 小布施 2004年10月19日(火)


 どんよりとはしているが比較的雲は高そうだ。この分だと午前中、天気は何とかもちそうかな? そこで7時からのバイキングの朝食後すぐに飛び出した。

 万座温泉から万座峠を通り、須坂まで下る県道は通称万座道路と言うそうな。

 カーブが多く狭い山道だが、周りは白樺の森が続き、その独特の色付き具合が得も言われぬ雰囲気を醸し出し、これはこれでなかなかの雰囲気ではないか。

 早朝ゆえか、それともこれはいつものことなのか、通る車もほとんど無く、所々で車を止めながらのんびりと車を転がす。大きく響く鳥の鳴き声以外、音は何もない。

 見上げれば昨夜泊まった万座温泉とスキー場、ただ北信五岳は霞んでほとんど見えない。しかし雨が降っていないのを喜ぶべきだろう。

 山田温泉から松川渓谷へ向かい八滝の展望台に到着。10数台の駐車スペースだが、ちょうどうまく回転しているのか、そんなに混雑はしていない。

 だが紅葉の最盛期には少し早い? 大きな森に包み込まれるように流れ落ちる勇壮な滝、180mもあるそうな。これが全山紅葉すればより見事であろう。

 続いて向かった雷滝でも何とか停められたが観光バスも多く、かなりの車で混雑していた。駐車場から急な階段をゆっくり歩いて10分あまり。

 カミさん、昨日は少し足が痛かったらしいが今日は大丈夫だと言い、何事もなかったように下りてゆく。朝風呂も含めて三度、ゆっくりと暖めたおかげで随分楽になり、その上荒れた手もスベスベになったそうな。

 この雷滝、落差は30mだが、轟音を立てて豪快に流れ落ちる様を下からは全容を、そして裏側の通路からは流れ落ちる水がすだれのごとく、その先に対岸の景色が見られ、なんとも不思議な世界。裏見の滝とも言うそうな。これは落差以上の迫力じゃん。

 松川渓谷の紅葉はこんなものではないだろうが仕方がない。紅葉真っ盛りの様子を是非見たいものだが・・・さて・・・?


 カミさんは栗が大好物である。秋になると丹波へ焼き栗や栗のお菓子を求めて行くのだが、今年はまだその機会がない。そのせいもあるのだろう、小布施がこの旅の目的の一つになっていた。いや一番と言っても過言ではない?

 須坂市から小布施へ向かうと道路際にはたわわに実ったリンゴ畑が続き、手を伸ばせばもぎ取れそうだ。弘前でもこんな光景を見たっけ。だがこちらのほうが何だかくすんで見える? やはり空気とか車の量の違いかな?

 小布施と言えば岩松院の天井絵だろう。到着した境内には中野小学校4年生が静かに整列中。社会見学らしく体操服姿がとても可愛い。その上お行儀が良く、一般客と一緒でもなんら違和感が無い。隣町の学校からここまで歩いてきたそうな。

 それに引き換え我が家のおばはん、近所の農家のおばさんが売っている野菜や果物の前を離れようとしない。

 「そんなんしに来たんとちゅうやろ。」

 そんな言葉には耳も貸さず、残り少ないリンゴに気もそぞろ。

 「お金を払っとくから、帰りまで預かっといてくれる?」

 おいおい、少しはまじめに見学をしている小学生を見習ったら?

 葛飾北斎が晩年に描いたと言う八方睨み鳳凰図も素晴らしいものだが、それを取り囲む欄間の見事さ! 事細かな細工に驚かされた。

 ことのついでにフローラルガーデンおぶせにも立ち寄る。そんなに広くない庭にはそこそこの花が植えられ、まあまあの雰囲気だが、入場料300円を取るのならもう少し?

 さて栗、栗、栗! まずは栗の木テラスでお茶する? だが時間は1時を過ぎている。聞けば軽い食事もとれるそうな。そして食後のコーヒー、カミさんは紅茶とモンブラン。ところが今までに食べたどこのモンブランよりおいしいと言い、お気に入りを通り越し、感激すらしている。ふ〜ん、そんなものですか・・・。

 隣の席には我々と同じくらいの上品そうなご夫婦。そのお二人の前にも紅茶とコーヒー、そしてモンブラン。ところが奥様が食べ終わると手をつけられていないご主人のお皿と交換している。まるで我が家のビデオテープを見ているようでなんだか身につまされた。私だけではないのだ〜・・・とちょっと一安心?

 後はお土産屋さんを二軒まわってなんだかんだとお買い物、そしてもちろん焼き栗も。観光バスが行き交い、かなりの観光客で混雑している様子に小布施の町を少し甘く見ていたと反省。


 今にも泣き出しそうだった空からとうとう雨が落ちてきた。カミさんにこの旅をこのコースだと決定付けさせたものがある。それは上田まで足を伸ばしてのマツタケ料理、なんと欲張りなことよ。だが時間が中途半端になり、その上栗の木テラスで軽く昼食をとってしまった。そこで夕方4時に予約を入れる。まる光園、一人6300円だそうな。

 高速道路を上田菅平インターチェンジまで利用。時間はたっぷりとある。ならば角間渓谷まで紅葉見物に行く?

 狭い山道の突き当たりに一軒の温泉宿。角間渓谷は深い森の中だがたいして見るべきものもなく、この雨の中では歩いて散策することもできず、文字通りただの時間つぶしになってしまった。

 さて、そのマツタケ料理だが、丹波あたりのマツタケ山は最低でも一万円、それがここでは6300円。大丈夫かな? と思っていたが、やはり鍋は牛肉ではなく鳥肉だそうな。マツタケと言えば牛肉のすき焼きだ・・・と思っていた私にはちょっとばかり肩透かし?

 しかしさっぱりしたものがお好みのカミさんにはそれがちょうど良かったらしく、大満足のご様子。結構ボリュウムがあり、全てを食べきれない。余った天婦羅をどうする?

 「すみませ〜ん。何か入れ物ありませ〜ん?」

 これで明日、マツタケの天婦羅が食べられる?

 降り続いている雨はますます強くなってきた。上田菅平インターチェンジから高速道路を利用、11時過ぎ無事帰着。全走行距離、1198Km。


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