14日の朝10時半ごろ長男から電話。15日の甲子園、阪神VS広島戦のチケットがあるが行かないかとのお誘いである。どうやら徹夜で並び、一塁側アルプス席の当日売りのチケットをゲットしたらしい。それも購入枠一杯の6枚。
だが今日は14日である。当日売りなら少しおかしい。14日は名古屋ドームで対中日戦の優勝のかかった大一番のはず。良く聞くとチケットを求めての行列があまりにも長くなり15日分の発売を14日の9時30分に繰り上げたらしい。彼は二日続けて徹夜をするつもりはなく、繰上げ発売を見越して並びギリギリのところで買えたと言う。
幸い月曜日はカミさんの休日。念のため意向を確かめ喜んでOKの返事。次男と三男は残念ながら仕事らしい。三男の嫁に電話をしたとき、これから二人で名古屋ドームへ行くところだと言う。我が家の家族のこの盛り上がりよう。さて、14日にも優勝が決まるかもしれないが・・・。
結果、阪神は中日に5対0の完敗。これで引き分けを挟み5連敗である。これは星野監督の予言通り、甲子園での胴上げを狙いわざと負けたのか? マジック対象の広島、ヤクルト共に勝ち、マジック2は変わらず。
ならば15日に阪神が勝ってもヤクルトが横浜に勝てばマジック1ではないか。その上ヤクルトは絶好調で14日まで8連勝中。それにもまして甲子園は2時からのデーゲーム。横浜球場は4時からの薄暮ゲーム。残念だが15日の胴上げは見られそうになさそうだ。
長男は席の確保もしてくれるらしく、ゆっくり来るように言ってくれたのだが、駐車場が心配で8時過ぎに家を出た。休日で車はガラガラで9時過ぎに到着。駐車場は半分くらいだが次から次へと入ってくる。これならあと30分もすれば満車になりそうだ。
これから試合開始の2時まで5時間近くもある。どうする? 長男からは早くも席を確保したとの連絡あり。私は阪神の選手のバッティング練習も見てみたいが、カミさんは退屈に違いない。暑さも少しはましになったとは言え快晴の下、それも炎天下のアルプススタンドである。やはり2時間前が限度だろう。と言うことでタイガースグッズの店などをゆっくりと冷やかしながら駅の北側まで足を伸ばし、少し探索。結構な距離を歩き少々疲れた。
ユーハイムのケーキ屋さんでコーヒーブレイク。ケーキを戴きながら店のおばさんと昔の選手などの話で盛り上がる。藤村冨美男、隆男兄弟、金田正泰・・・。今健在なのは後藤の熊さんと、この近所にお住まいの白坂長栄さんくらいらしい。なに、これは古すぎる? その後の吉田義男、三宅秀史、鎌田実、村山実、小山正明、江夏豊、遠井の吾郎ちゃん・・・。話は尽きない。
球団からは、もし優勝が決まったら早めに店を閉めてください・・・と申し入れがあったそうだ。これは何を意味するのか? 一部ファンの自覚を望みたいものだ。
ボチボチおいとま・・・。だが、まだ早いでしょう・・・と日本茶まで入れてくれる。おまけに見ながら食べて・・・とドーナツまでいただいた。おばさんありがとう。
ダイエーに入り少し早い昼食と差し入れのお買い物。店内はタイガース関連の商品が一杯。ある売り場では六甲おろしも流れ、レジに並んでいる人はユニフォーム姿の人がほとんど。間も無く決まるであろう阪神対ダイエーの日本シリーズではどうするの?
12時近くなりようやく本日の決戦場所へ。球場の外も早くも人が溢れ、やはりいつもとは違いなにか一種異様な雰囲気だ。それぞれに気合が感じられ、いやが上にもその気にさせられる。
どなたかが巨人ファンは観戦するが阪神ファンは参戦すると言っていた。この雰囲気はまさにこれから戦うぞという人ばかり。
球場内は暑さを避けるため、屋内の通路に座り込んでいる人の多いこと多いこと・・・。一歩スタンドに足を踏み入れてまたびっくり。早くも三塁側のアルプスとレフト側の外野席の自由席のところだけは早くも超満員。それも早くも盛り上がっている。もちろんこの一塁側のアルプスも・・・。
巨人戦を含め何度か来た事はあるがこんなのは始めてだ。長男は10人ほどのお友達と我々の席をあけて待っていてくれた。聞くとインターネットのチケットつながりや徹夜で並んだ、いわば戦友達らしい。横浜から一番の新幹線で駆けつけた若者が二人。相模原から来たという人も・・・。失礼とは知りつつ、つい本音。
「あんたらアホちゃう?」
今日この広島戦にもし勝てばバックスクリーンの画面でヤクルト横浜戦を映し、その後優勝が決まれば胴上げと優勝セレモニーをするらしい。長い戦いになりそうである。
グランドでは広島の打撃練習中。わいわい騒いでいるうちにシートノックも終わり、今日の先発が伊良部と河内と発表され、決戦ムードもピークに達しようとしている。早くも試合開始。と言うことはこの場所にもう2時間もいたの?
今まではイエローシートばかりでアルプススタンドでの観戦は初めてである。それも一番過激なライトの外野指定席に近い場所。応援のすさまじさは想像をはるかに超えている。イエローシートからでもある程度はすごいなと思っていたが、それでもまだ落ち着いて野球を楽しんで見ることができる。しかし、ここでは野球を見るのではなく、まさに全員が参戦している。このままで9回、体力が持つのだろうか?
当然ながら広島の攻撃のときはまだ落ち着いて見ていられるが、阪神の攻撃のときは座ってなどいられない。全員が立ち上がり、一球ごとにそれこそ一喜一憂。リーダーの指示に従い、見事なまでの統率された応援振り。これは高校野球の比ではない。
応援歌も私のようにうろ覚えなどではなく、皆さん完璧だ。本来レギュラーでない沖原や広沢のものは正直言って知らなかった。試合を見ながら応援リーダーのサインも見なければならず、慣れない私にとってはとても忙しく、これは大変だ。
また昔話になるが、ずいぶん以前から応援団はあった。それぞれが勝手な場所に陣取り、好き勝手に応援をしていた。応援団同士のいさかいを目撃したことも何度かある。個々に大きな声でタイミング良く痛烈な野次を飛ばす。またそれも楽しみでもあったものだが・・・。正直観客のマナーは良いとは言えなかった。
30年も昔になるか・・・。シーズンの最終戦。相手は巨人。その試合に勝ったほうが優勝の大一番である。先発は上田二郎と高橋一三。結果は9対0の大敗。
私は阪神のダッグアウトのすぐ後ろの席で、後ろから何が飛んでくるかわからず、お尻に引くべき座布団を頭に被り最後まで観戦していた。阪神ファンは盛り上がるところがなく、優勝の際投げ入れるべく持ってきた大量の紙テープを7回のラッキーセブンに投げ、憂さを晴らしたのはまだ許せるとしても、絶対に胴上げさせるな・・・と試合終了後フェンスを飛び越え、グランド内になだれ込み、中には巨人の選手に危害を加えたものもいたらしい。
それが、それがである。この大観衆を一つにまとめるということは奇跡に近い。中心となるまとめ役のお方のご苦労は敬服に値する。今日もグランドには入らないようにとの場内放送が再三流されているが、このリーダー達とこの観客なら心配はなさそうだ。
有名なライトスタンドのピンクレディー。見事なまでの総リーダーの統率振り。超過激なコスチュームの女の子。全てに驚くやら感心するやら・・・。
カミさんはファンである矢野君の39をつけたユニフォーム姿の女の人に異常なまでのライバル心。あの人には勝っている? あの子には負けた? この際、そんなことを言っている場合じゃなかろうが・・・。
肝心の試合のほうは伊良部が3回、シーツに2ランホームランを打たれ、阪神は4回までノーヒット。押しに押され、何だかイヤ〜な雰囲気。落ち着いて試合を見られる雰囲気ではないが、ここは冷静に、私なりに若い河内の投球をじっくり見てみることにしよう。
ゆったりとした大きいフォームから良く腕が振られ、どうもタイミングが取り辛そうだ。その上荒れ球。このようなピッチャーはランナーを背負い、セットポジションになると一気に崩れることが多い。赤星の出塁からチャンスが生まれるかもしれない。
思った通り5回、モンキー(藤本)の初安打から沖原のタイムリーで1点差。私はこの1点で今日は勝てそうな気がしていた。予想通り8回、片岡の同点ホームラン。そして9回には赤星のサヨナラヒット。
野球の神様は粋な演出をしてくれる。絵にかいたような・・・とはこのシーンのことしかないだろう。あとはお決まりのヒーローインタビューと六甲おろし。興奮はしばらく収まらない。
そこへ横浜が9対4でリードとの情報。優勝は早くから約束されていたとは言え、やはり胴上げを見てみたい。それが目の前で実現されようとしている。
売店とトイレには長〜い行列。カミさんは
「夕食はどうするん?」
と心配そう。今日だけ特別に半券で再入場できることになり、急いでダイエーへ行き、トイレと食事を済ませ戻ってくるとスタンドはウエーブの真っ最中。横浜スタジアムは早くも8回裏が終わろうとしていた。
やがて無人のグランドでのあと一人コール。選手たちは早くもベンチを飛び出そうとしている。7時33分、ついにその瞬間はやってきた。
マウンド付近で星野監督の胴上げが始まった。3度、4度、5度・・・。後は遠くて誰が胴上げをされているのか良くわからない。輪の外では誰かが引きずりまわされている。土に汚れたユニフォームにかすかな9の背番号? モンキーではないか。ならば引きずっているほうは金本? 和田コーチの虎の意地を読んでいれば誰だって悪ふざけではなく、じゃれあっていると思うだろう。心から喜んでいる様子がまたうれしい。
藤村、別当、土井垣、金田、呉、本堂、御園生、梶岡、若林・・・。10歳前後のころから半世紀、真の阪神ファンを自負してきた。両親は野球には興味はなく、兄は小西得郎率いる松竹ロビンスを応援しており、なぜ阪神ファンになったのかはわからない。2リーグ分裂後4度目の優勝だが、初めて目の前で胴上げシーンを見ることができた。ジンワリと目頭が熱くなる。この年である。周りの皆のようにさすがに大はしゃぎは出来ないが、喜びの気持は誰にも負けない。
そしてチャンピオンフラッグの授与式。セレモニーが終わり監督インタビュー。優勝決定まで2時間以上あったから・・・などと野暮なことは言うまい。心打たれる話とその巧みな話し振りにまた涙がにじんできた。
チャンピオンフラッグを中心に場内一周。スタンドは万歳の嵐。来年はキャンプから1年間、この旗が球場に翻る。どうせならもう一つの旗が浜風に泳いでいる姿を見てみたい。
興奮はなお続いている。何度も何度も万歳と六甲おろし。これはきりがない。現実に帰ればカミさんは明日仕事である。いやほとんどの方がそうであるはず。後の騒ぎは若者に任せるとして、周りの人に握手と挨拶を済ませ、スタンドを後にした。
球場の外も大混雑。スタンドにも負けず劣らぬ大騒ぎの人ごみをかいくぐり、駐車場に到着。監督の第一声ではないが、ああ、しんどかった〜・・・。
家に帰ってからも10時からのニュースステーションを皮切りに、各局の特番のハシゴ。チャンネルをあっちへ、こっちへ、パチパチ、パチパチ・・・。結局2時過ぎまで余韻を楽しんでしまった。三男夫婦から祝福の電話。日本シリーズは何が何でも行くからよろしく。これは弟からのメッセージだよ、お兄ちゃん・・・。
今日の長い一日がようやく終わった。しかしこんなにうれしい日はそう多くない。お兄ちゃん、ありがとう。そしてお疲れさん。結局君は何時間球場内にいたことになるの?