旅 日 記
浄土が浜 気仙沼
2002年10月11日
ホテル羅賀荘での唯一の救いは美しい朝日であった。遥かな水平線上にかかったわずかな雲の上から静かに頭を持ち上げて瞬く間に姿を現した。同じ太平洋だが、熊野灘で見た太陽より赤の色が濃く、大きく思える。穏やかな海がキラキラと輝き、シルエットのような漁船が行き交い、その航跡が長く続いていた。
じっと眺めているだけで心が洗われそうで、昨夜のモヤモヤした気持ちもどこかへ消え、指の腱鞘炎も峠を越えたらしく、ひざの痛みも治まり、元気を貰えたようだ。
この旅六日目にして始めて快晴である。南に向かう国道は通行量も少なく、やはり青い空を眺めながらのドライブは気分が良い。
屏風が折り重なったような美しい海岸線の鵜の巣断崖に立ち寄り、宮古市へ向かう。
宮古では駐車場から御台場展望台を経て浄土ヶ浜まで、明るい日差しを浴びながらゆっくりと散歩した。
青い空に群青の海。遠くには緑の松林。透き通った美しい水辺にウミネコが飛び交い、女性的な優雅で真っ白な砂浜、そして岩肌。北山崎の黒っぽい男性的な眺めとは正反対じゃん。
先人が極楽浄土と唱えたと言う話にとても説得力を覚え、大いに納得、そして共感するものがある。ベンチに座り眺めているとポカポカと暖かく、ほんわかと、とてもいい気持ちで眠気を覚える。
駐車場に戻り、今日の宿だけは予約していないため改めて相談。疲れや体調不良など、不測の事態のときはここから遠野市を経て北上市から高速道路で帰途につくつもりであった。だが二人とも元気一杯。おまけに昨日のこともあり、改めておいしい魚にめぐり合いたい。
カミさんもこのまま帰るわけにはいかない・・・とまだ怒りが収まっていないご様子。ならば今日の宿は気仙沼にしよう。観光協会に電話。お勧めの宿を3〜4軒教えてもらい、まず気仙沼ホテル観洋へ問い合わせ。
「今からではお部屋食はご用意できませんが、お食事どころでの夕食で、一人10000円ではいかがでしょう。」
「おいしい魚が食べたいが・・・。」
「では12000円でお任せ下さい。」
と自信たっぷりの答えにお願いすることにした。
宮古市からはそれまでとは大違い。車の量は桁違いに多くなる。この国道は海に沿って走っているはずだが、海を眺めながらのドライブがほとんど出来ない。
山田町に差し掛かり、建設中の高速道路の完成している部分が無料開放されている。なに? またソフトクリーム? それもわかめソフトだそうな。
道の駅やまだは合流した国道からは戻らねばならない。何のことはない、これでは道路公団の粋な計らいがあだになってしまったではないか。トホホ・・・。
昼食は釜石市の名物、橋上市場へ。その名前の通り、川に架かった橋にたくさんの店が並び、魚屋、乾物店を主に生活用品はほとんど揃いそうだが、客は少なく、店番の人はのんびりムード。中にはコックリ、コックリしている人もいる。施設はとても古く、これはこれで良い雰囲気だが、老朽化のため年内で閉鎖し、駅の近くに移転するそうな。
10人ほどしか入れないまんぷく食堂だけは満員でついには客が溢れ出した。するとこの忙しいのに主人が店を出て行ってしまった。材料が足りなくなって近くの魚屋へ仕入れに走ったらしい。これならロスも少なく、合理的だろう。
ガイドブックに紹介されている2300円のハウマッチ丼イクラを食べている男女の若者4人連れがそのボリュームに悲鳴を上げているほどで、もはや我々には太刀打ちできる代物ではなさそうだ。
1000円の刺身定食と1200円の海鮮丼を注文。これがまたボリューム満点。魚も新鮮、盛り付けもセンス良く、とてもおいしく大満足。
「羅賀荘の板前さんもここへ修行にきたらええんとちゃう?」
まだ言うか。
大船渡市でも無料開放の高速道路が市内を迂回。立ち寄った下船渡のおさかなセンター三陸では一匹30円の秋刀魚、鯖は150円など、新鮮な魚の安さに驚かされる。目当てのイカの沖漬けは今日の入荷はなく、もしあったとしても生物で日持ちはせず、持ち帰るのは無理らしい。代わりにイカ飯を買って帰ることにした。
侵食によって見事な穴が開いた穴通磯を見物。碁石海岸では黒くて丸い石と貝殻を拾い、一路気仙沼へ急ぐ。
突然携帯電話の呼び出し音。カミさんが楽しそうに話をしている。送ったリンゴがついたらしい。昨夜いくら電話をしてもかからなかった? そう言えば圏外の表示が出ていたっけ。我々はどんな地の果てまで行っていたと言うの?
到着した気仙沼ホテル観洋は大きなホテルでロビー付近には多くの人が出入りし、活気が感じられる。この旅行で一番良さそうな静かで落ち着いた7階の広い部屋からは賑やかな港と町並みが見渡せ、目の前の大きな大島との間の海を小さな船が行き来していた。
夕食は和食どころ蛸の座敷に用意されていた。今が旬の秋刀魚、戻り鰹を中心にしたお刺身をはじめ、懐石風に出てくる魚三昧に大満足。やはり海を目の前にしたところへ来たからにはこうでなくっちゃ〜。最後の夜は穏やかに過ぎて行った。
Next Top
|