旅 日 記
みちのく6泊七日の旅
八甲田 奥入瀬渓流 2002年10月8日(火)
幸運にも空は晴れている。 風も治まったようだ。 朝食後駐車場の水道とホースを借りて洗車する。 9時始発のロープウェイに乗るため8時過ぎに宿をチェックアウトした。
早くも駐車場には十数台の車が止まり、登山などの準備をしている人もいる。 だんだん並ぶ列が長くなってきた。 大きなリュックサックを持った重装備の人もいればスカートやハイヒールの少し心配な人も見られる。 我々はスニーカーにジーパン、防寒用のジャンバーにナップサックと一応それなりの格好はしている。
始発のロープウェイが到着。 従業員が中から鉄のおもりを下ろし始めた。 それも5人の男が5分以上かかるくらいのかなりの量である。 昨日の風に耐えるにはそれくらいの重さが必要と言うことか?
満員のロープウェイは高度をグングン上げてゆく。 左に津軽半島、右に夏泊半島、両半島にはさまれる様に青森湾を前にした青森市の市街が朝の光に輝いている。 緑が美しい牧草地も数多く見られるが、それをゴルフ場と見間違えるのはこの地になじまない人間の証か?
中間地点に差しかかる。 周りは一面黄金色。 いや、もっと重みのある色か? 何とも言えない素晴らしい紅葉の海が広がっていた。
夢見心地の数分間のすぐあとに今度はガス。 全く視界がなくなった。 この変わりようはどうしたことか。 まだ心の整理も出来ず、信じられない思いのまま終点に到着。
気の早い4人のグループはそのまま下りると言い出した。 乗車券のことがあるのだろう、係員は改札と連絡を取るなど右往左往。 待合所にはストーブがたかれ、人だかりがしている。
外は風が強く、かなり寒い。 濃い霧の中早くも登り始める人も多いが、さてどうする? しばらく様子を見ていたが霧が晴れる気配はない。
だが少しは見通しもよくなったかな? そこで強風の中八甲田ゴードラインの20分のコースを歩こうと飛び出した。 コースは比較的平坦でよく整備されており、歩きやすくて迷うことはないが、2mほどの高さの木々の中の道からは霧が晴れたとしても見晴らしは期待できない・・・かな?
展望台が近くなり細かい雨が落ちてきた。 たいしたことはなさそうだが山の天気はわからない。 それなりの格好はしてきたがナップサックの中身はお菓子とお茶だけ。 愚かにもほどがある。 私としたことが一番大事な雨具の用意を忘れているではないか。 大失態。
展望台へはあと5分くらいの距離らしいが霧が晴れる保障はなく、それより今は雨のほうが心配だ。 この時期の雨は急激に身体を冷やす。 ここで女王様に風邪をひかせる訳にはいかない。 あと300mの標識を見て展望台とは反対のロープウェイの乗り場へ急ぐことにした。
半分ほど歩いただろうか? 雨が上がり一瞬雲が消え、木の間隠れの下の方に毛無岱の美しい湿原が現れた。 先日買った雑誌のきれいな写真を思い出す。 ベージュ色でもなくオレンジ色でもない・・・何ともいえない素晴らしい色の絨毯、いやビロード?のような草原と、その空間に沼の水が光っていた。
あわててカメラを取り出したが二回もシャッターを押せただろうか? 瞬く間に雲の中。 これは夢ではない。 ならば神様のプレゼント?
待合所のストーブで温まり、二階の食堂で休憩。 ガイドブックに紹介されている山ぶどうのジュースを飲んだカミさんはファンタグレープの味がする・・・とあまり良い顔はしていない。 次のロープウェイで下りたが、駐車場から見上げると雲は間もなく晴れそうだ。 我々は一番悪い時間に登ったらしい。
酸ヶ湯温泉から昨日とは走る方向は逆だが、今日は比較的のんびりしている。 朝夕は仕事の車も多いのだろう。 この時間は観光の乗用車ばかりで急いでいる様子はない。
名前とは裏腹に華やかな地獄沼は今がちょうど紅葉の盛りだろうか。 時間のこともあるのだろう、曇り空ながら昨日よりは明るく輝いているようだ。 水面からうっすらと湯煙が上がっている。 温泉が湧いているのかな?
笠松峠は標高が1040m、地獄沼よりは紅葉も進んでいるが、標高差はいかほどだろうか? 八甲田連峰の変化に富み、個性豊かで雄大な山々を眺め、そしてそこに広がる素晴らしい紅葉、これぞ八甲田の魅力だろう。
睡連沼は少し落ち着いた風情で静かに佇んでいた。 そよ吹く風が湖面にさざ波をもたらし、じっと見つめるだけでなぜか落ち着く。
谷地温泉から田代高原へももう一度走ってみた。 昨日の日が傾いた柔らかな日差しの中の風景も風情があり十分に楽しんで感動したものだが、今日はお昼前の高い太陽に照らされて全てが輝いている。 同じ紅葉や風景だが違った姿を二度にわたり見られた我々は幸せ者である。
やはり紅葉劇場八甲田編は裏切らなかった。 いやそれ以上の感動を与えてくれた。 40年前の願いがようやく叶い、再びこの地を踏みしめることが出来たことを素直に喜びびたい。 だが40年はいかにも長い、いや長すぎたかな?
谷地温泉から今度はブナのトンネルの中へ。 どこまで下るの? 周りはまだまだ青い葉ばかりのうっそうとしたブナの森。 深い谷底まで行くの? 曲がりくねった下り坂はまだ続いている。 突然現れたこの薄暗さと先ほどまでの晴れやかな景色。 この落差はなんとしたことか。
ようやく夜明けのようにうっすらと明るくなってきた。 木々の間から覗いている少しばかりの空。 どうやら蔦温泉らしい。 しかし蔦沼など全く見えなかった。 ならば歩くしかないじゃん。
雲が随分多くなってきたようだ。 蔦沼までは10分ほどの静かな森の中の散歩だが、澄み切った水が流れる川とそこに浮かぶ枯葉が何とも良い雰囲気である。 春には水芭蕉が咲くそうな。
突然視界が開けた。 大きな森に包まれた蔦沼はあくまで静かであくまで清らかである。 風の音もなく、湖面を揺るがすわずかなさざなみの音が聞こえてきそうだ。
蔦温泉旅館のパンフレットに載っている絵画のような紅葉をぜひ一度見てみたいものだが、色付くのはまだまだ先になりそうだ。
大町桂月が愛したと言う蔦温泉旅館は森の中に溶け込むようにどっしりと建っている。 だがここまで有名になるとやはり人は多い。 木造の落ち着いた雰囲気の温泉を楽しませていただいた。
天井が高く、木のぬくもりが感じられる湯舟からは時々体に沿って澄み切ったお湯に小さな泡? こんなきれいなお湯の中で粗相をした覚えはないが・・・? そっと周りを見回した。 どうやら底に敷かれた板の隙間からお湯が湧き上がっているらしい。
ほどなく焼山に到着。 久し振りに見るガソリンスタンドの看板が新鮮に感じられる。 なぜかホッとするのも、この時代に生きる者の性か?
奥入瀬渓流センターで昼食とお土産を物色。 ガイドブックに載っているお菓子を探すが見つからない。 若い店員さんに聞いたが無いとの答え。 仕方なくほかのものを物色中、その娘さんはわざわざ我々を探し、以前は置いてあったがその業者とのトラブルから今は置いていないそうです・・・と伝えてくれた。 わざわざ聞いてきてくれたそうな。 暇なときならいざ知らず、周りはお客さんが溢れていると言うのに・・・。
この親切さに気を良くしたのか? おばはんは大きな紙袋二つに入りきらないほどのお土産を買っている。 当然ながらおいしそうなりんごパイなど自分自身へのお土産も・・・。 可愛そうにそのあおりをくって、一週間用の大きなバッグがトランクから追い出され後部座席へ。 トランクのほうがゆっくり眠れた? ごめんね〜・・・。
いよいよ奥入瀬渓流である。 車で通過するだけでなく一度歩いてみたい。 だが全コースを歩くほどの時間も無く、また体力にも自信が持てない。
石ヶ戸の道路沿いの駐車スペースでは数台の観光バスが道路まではみ出している。 これが休日ならば大変な渋滞?
JRの路線バスの停留所の時刻表では14時17分に十和田湖行きがある。 今の時間は14時を過ぎたばかり。 ならば二つ目の停留所の雲井の滝まで乗り、歩いて帰ればちょうど良いではないか。
しかしバスはなかなか来ない。 少しばかり心配になり始める。 もはや限界・・・の20分も遅れたワンマンバスは名所などで徐行。 時には停車して運転手が流暢にガイドしてくれる。 確かこのバスは青森発十和田湖行きの路線バスであったはず。 JRも変わったものだなあ〜・・・とあまりバスなどに乗ったことが無い我々には新しい発見であったが、これでは遅れることもやむをえない?
10分ほどのバスの旅を楽しみ、雲井の滝で下車。 周りはとても薄暗い。 木の間隠れにわずかに見えている空は何だか雲行きが怪しくなってきたようだ。 うっそうとした森の中に激しく流れ落ちている滝の水だけがやけに白く見えている。
車道と渓流にはさまれた歩道は所々ぬかるみ、時には車道を歩かねばならない。 苔むした岩や木。 色付くには早く、まだまだ緑溢れる美しい森。 見上げる空は時には木々の切れ間から明るく覗き、時には覆われ薄暗くなり、流れる水は時には穏やかに、時には激しく流れている。
阿修羅の流れ、九十九島など変化に富んだ渓流と、しっとりとした空気の森林浴を楽しみ、50分ほどで石ヶ戸へ。 すぐ横を走っている車は多少気にもなるがおおむね快適。 無いに越した事は無いが贅沢は言えない。
今度はハンドルを握り、逆に迷惑をかけながら?・・・十和田湖へ。 歩いている人や自転車の人はそんなに多くない。
銚子大滝は一段と薄暗くなった森の中、激しい音をたて、水しぶきを上げながら豪快に流れ落ちていた。 わずか数メートルの高さだが、幅もあり迫力満点、周りの暗い雰囲気と激しく流れる白い水、このコントラストがいい感じである。
子ノ口では雨が降ったらしく道が濡れている。 風が強く人影も見えない。 桟橋には無人の観光船。 十和田湖の水面には小さな波が立ち、空の色を写してかなにか冴えない色をしている。 その上濁っているようだ。
霧雨が降る瞰湖台からはぼんやりとした眺め。 中山半島の紅葉もまだ始まったばかりのようだ。 40年前の十和田湖はこんなものではなかった・・・かな? もっとも青い水の中でボートを漕いでいたのだから、青空も広がっていたのだろう。
今日の宿は休屋にある国民宿舎十和田湖温泉である。 一泊二食6300円。 電話をしたとき少し驚いた。 これではおいしい食事など期待できない。 ところが、
「たまにはそんなところもええやん。」
けちな大蔵大臣としては渡りに船? だが良く考えてみれば毎日おいしい料理をいただいていると身体に良いわけはなく、たまには粗食にしなければならない。 ならばちょうど良かったかな?
案の定、この二日間で体重は増えてきたようだ。 お互いホテルの体重計が狂っている・・・などと言い訳をしているが、ダイエット中の二人には一大事である。
二階建ての古い建物と小さな部屋。 壁も薄いようで外の物音が響き、やはりそれ相応であろう。 風呂も温泉を運んでいるそうな。 名物のヒメマス料理もダイエット食にはちょうど良く、休肝日としてビールも控えた。
夜、うるさければ困るな〜。 だがそれも杞憂に終わり、とても静かでぐっすり。 この値段でこれなら満足できる。 部屋にトイレさえ付いていれば? それは贅沢?
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