旅 日 記


みちのく6泊七日の旅


十和田湖 八幡平 乳頭温泉 2002年10月9日(水)


 まだ夜が明けやらぬ5時起床。 出来るだけ音を立てぬよう静かに身支度をする。 夜半雨が降ったらしいが今はやんでいる。 夜明けを待って宿を飛び出した。 朝食までに早朝の十和田湖を一周する計画である。

 まずは昨日来た道を子ノ口まで。 続いて1011mの御鼻部山へカーブの多い坂道を登って行く。 高度が上がるにつれブナの森が徐々に黄色に変わってきた。 澄み切った空気のせいか、その黄色が新鮮に感じられ、とても鮮やかで美しい。 ついには周り全てが黄葉の世界になってきた。

 真っ赤なもみじも華やかで美しいものだが、この黄葉は落ち着いた中にもなにか晴れやかな感じがして、とても良い雰囲気である。 ところどころで木の間越しに早朝の穏やかな美しい十和田湖が見え隠れし、早起きして良かったと実感。

 ところが御鼻部山展望台が近くなるとガスがかかりだし、美しい森をしっとりとした白いベールで包んでしまったではないか。 まるで魔法にかけられたようである。 風は全くないがかなり寒く、鳥の泣き声以外物音は何もない。 霧の中に黄葉した樹々が浮かび上がり、とても幻想的でかなり良い雰囲気ではあるが、裏を返せばこれは十和田湖が全く見えないと言うことではないか。

 真っ白な展望台はなお一層寒さを覚える。 しばらく待ったが霧は晴れそうにない。 朝食の時間もあり、そんなにゆっくりもしていられない。 どうも今回の旅は肝心なところでガスが邪魔をする。

 静かな森を下って行くと霧も消え徐々に緑の世界へ逆戻り。 紅葉は高いところから順番に下りてくる・・・と実践教育をしてくれている?

 ようやく湖畔沿いの道へ。 あれ? 滝ノ沢展望台は? どうやら先ほど通った交差点を黒石方面へ行ったところのようだが、もう結構走っている。 まあいいっか〜。


 早朝の十和田湖は静かで穏やかな湖面がまことに心地良い。 当然ながら人影もなく、周りもあくまで静寂で、わずかに吹く風が色付き始めた木々を揺らしていた。

 御鼻部山の上だけにかかった雲をかき分けるように顔を覗かせた太陽がまぶしい。 これに答える湖の水はキラキラ、キラキラ。 その軌跡をたどってゆけば、もう一度山の頂まで登れそうである。

 青空も広がりだしたことだし・・・と宿を出てまずはもう一度瞰湖台へ向かった。


 小雨が降っていた昨日の十和田湖とは違う十和田湖が目の前にあるが、こんなものではないはず。 もう一度訪れたいが十和田湖はあまりにも遠い、いや遠すぎる。 仕方なくこの景色を瞼に焼き付けて今日の宿、田沢湖へ向かうことにした。

 十和田湖畔を走っていると間もなく小さな喫茶店の前にアップルパイの大きな看板。 これなら誰にでも目に入る? だが肝心のパイは8時30分ごろに近くのホテルから届くらしい。 あと10分ほどあるがカミさん、どうしても食べたいと言う。

 主人が取りに行ってくれたが手ぶらで帰ってきた。 今日は予約が多く次の焼き上がりになり遅くなる? それはないだろ? だが穏やかな十和田湖を眺めながらのモーニングコーヒーもまた乙なもの? そして最後の展望台の発荷峠から十和田湖に別れを告げた。


 樹海ラインを経て小坂町へ。 長らく森の中ばかりを走っていたせいか小さな町並みだがとても新鮮で大都会のように思える。 家の屋根は片方は大きく片方は小さく・・・それも皆同じ方角を向いている。 これはやはり雪対策? 国道を鹿角市へ向かう。

 立ち寄った道の駅かづのでまたお土産? なに? あの人のお土産はこれに変える? ならば前に買ったのはどうする? なに? 余れば自分で食べる? なるほど、そういうことか。 ん? なんだか変?

 この様子を見ていた若い店員さんは優しく微笑んでいる。 丁寧に商品の説明をしてくれ、親切でとても可愛い。 帰り際、道中でお食べ下さい・・・とさりげなく饅頭を二つ持たせてくれた。


 小学生のころ、良く遊びに行った父親の姉の嫁ぎ先で、その叔母が帰り際、そっと握らせてくれたお菓子や小遣いのことをふと思い出す。 この地方にはそんな懐かしい昔の暮らしぶりがまだ残されているのだろうか?

 そう言えば鯵ヶ沢の青年と言い、津軽こけし館の人たち、奥入瀬渓流センターの店員さん、それに加えこの道の駅かづのの娘さん、いずれも接客の教育だけでは身につかない何かを持ち合わせている。

 持って生まれた優しさ、人を思いやる心・・・現代社会、特に都会ではもはや死語となりつつある人間本来のあるべき姿にほのぼのとうれしさがこみ上げ、また懐かしく、心が締め付けられる思いであった。 この旅での最大の発見、そして得た最高の収穫だったかも知れない。


 間もなく八幡平への標識が現れた。 するとカミさん、

 「そや、もう一回八幡平へ行こ。」

 「目的は紅葉だけか?」

 「そんなんわかってるやろ?」

 愚問だったようだ。 今日は夕方までに田沢湖へ到着すればよいことだし・・・まあ、いいっか。

 ところが先日、先を急ぐあまり通過した大沼では見事に紅葉しているではないか。 3〜4日でこうも変わるものか? 池の周りを色付いた森が取り囲み、柔らかな光を浴びて輝いている。 ここだけでももう一度来た甲斐があると言うものだろう。



 空には雲も浮かんでいるがおおむね大きな青い空。 だが八幡平アスピーテラインの山頂付近だけは黒い雲に覆われ、今にも雨が落ちてきそうな雰囲気である。 今日はまだ半分くらい空いている駐車場のおじさんは、大丈夫だ〜とあんに止めなさいと促しているようだが、何も無理をしてまでハイキングをすることもないかな? それよりもう一度、ドライブを楽しもうではないか。 なに? 腹減った?


 ならばと直行で到着した御在所で美しい紅葉を眺めながらのジャがバター、牛肉の串焼き・・・などなど、もちろんばあさんはソフトクリームも。 このおいしさにかなうものはなく、最高の昼食じゃん。

 今日はここでUターン、改めてのんびりと山頂へ。


 先日よりは天気が良く、周りの山や谷も美しい紅葉とともに輝いていた。 見よう次第では緑の牧場に牛や羊たちがのんびり遊んでいるようにも見える色模様がとても面白い。

 だが何箇所かこの風景に似合わないガレ場もあり、そしてそのガレ場を覆い尽くさんばかりに茂りだしているたくましい木々がとてもカラフルではないか。

 しかし、大きな岩手山の頂上付近の雲だけは、なぜか動かない。

 見下ろすと谷にはいくつかの沼が見える。 あの沼は熊沼だろうか? 届く陽光にやさしく輝いていた。


 今日は山頂から少し下がったところの藤七温泉彩雲荘で一風呂浴びることにした。 ここは標高1400m、東北最高地点の温泉だそうな。 半分雲に隠れた岩手山の山裾に広がる深い谷を眺めながらの露天風呂。 青い空にさわやかな風。 いくら入っていても飽きることがない。 それに加え、先客二人との楽しいおしゃべりでついつい長風呂になり、今日はカミさんを待たせてしまった。

 先日の後生掛温泉、今日の藤七温泉、二つのひなびた温泉と八幡平の大自然を十分に堪能し、これでもう思い残すことはない。 さて次の目的地、田沢湖を目指そう。


 助手席では湯上りのほてった顔をしたカミさん、何だか眠そうにしている。 しばらくしてウトウト、ついにはグゥグゥ。 しかし周りの紅葉は三日前よりは確実に進み、より美しく輝いている。 その上この旅、最後の紅葉になりそうだ。 かわいそうだが、オーイ、起きろ〜。

 玉川温泉も少しばかり探索した。 橋を渡ると右に新しい建物、左には少し離れた川沿いに赤い屋根の古い建物があり、広い駐車場はほぼ満車でゴザを持った人などが行き来している。

 あとで聞いた話では、この温泉は強酸性でラジュームの含有率が高く、ゴザを敷いてのオンドル式をはじめいろいろな入浴方法があり、大病の人が治ったという話が広まって大変な繁盛振りだそうな。 新館は料金が高いのと温泉場まで遠く比較的予約は取りやすいが、旧館は予約が難しく、日帰り入浴も朝早くから並ばなければならないそうな。


 田沢湖は湖岸をドライブして少しだけ雰囲気を楽しみ先を急ぐ。 可愛い建物の山のはちみつ屋で蜂蜜のお土産もゲット。 次は乳頭温泉郷へ。

 今日の宿の休暇村田沢湖高原も温泉だが、ここまで来たからには話のネタに超有名な鶴の湯温泉にも入ってみたい。 バス道からそれ、山深い森の中、それも途中から地道の狭い道。 もう夕方の4時過ぎなのに到着した鶴の湯温泉は車も人も多くて驚いた。

 かやぶき屋根の宿泊棟の奥に男女とも3〜4箇所の浴場があるらしいが、少し離れているらしく、古い小屋のような建物の周りを素っ裸の男性やバスタオルを巻いた女性の歩いている姿が丸見えじゃん。

 テレビや写真でよく見る露天風呂へ。 中は狭い脱衣所と、そのすぐ隣に2〜3人用の小さな湯船。 そしてその奥は壁も扉もなく吹き抜けで、打たせ湯と露天風呂が見えている。

 露天風呂の乳白色のお湯と周りの風情はあれだけ映像などで何度も見せられていると初めてのような気がしない。 少し温めのお湯と打たせ湯を何度か往復。 のんびり、ほっこり。 秘湯ムードたっぷりだが、これだけ人が多いと宿泊客がお気の毒に感じる。

 カミさんは藤七温泉に入ったのがほんの3時間前でもあり、何かのぼせたような疲れた顔をして出てきた。 昨日あたりから車の中は硫黄の臭いが消えず、お互い手を鼻にかざして苦笑い。 しかし、これだけ毎日、朝、昼、夜と温泉につかっていると、カミさんの荒れた手がスベスベ、お肌もツルツル。 やはり温泉の効用は素晴らしいものがあるのだろう。

 そう言えば鶴の湯温泉では料金を払っただけで何もくれなかった。 他の所は入浴券とか領収書とか貰ったが・・・会計処理や税務処理はどうなっているの? あれだけの人数となると、例え400円でも馬鹿にならない・・・と他人の懐勘定に花が咲いているうちに休暇村田沢湖高原到着。 鶴の湯温泉とは正反対のまだ新しくて白いきれいな建物である。 付近の紅葉はまだ始まったばかりのようだ。


 夕食はカミさんが大好きなバイキング。 何度も何度も・・・まだおかわりするの? ちょっと食べすぎじゃない?

 たまたま隣の席に座り合わせたお方は日立市から来られた兄弟夫婦の4人連れ。 我々より少し年上だが、気さくな方達で仲良くおしゃべりの仲間に入れて頂いた。 ついにはビールまでご馳走になり楽しいひと時を過ごさせていただき、感謝、感謝。


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