旅 日 記


谷川岳から日光へ


谷川岳 照葉峡 2006年10月16日(月)


 今年の夏、それも猛暑日が続いていた8月中頃のこと、

 「今年の秋はどこへ行くん?」

 おいおい、こんなに暑いのにもう秋の話かい。

 「そんなことでも考えてへんと、この暑さはしのげんやろ。」

 その気持ち、わからないでもない。 それほどにこの夏の暑さは異常であった。

 「ほなどこへ行きたいんや?」

 「磐梯山の紅葉をもう一回見てみたいねん。 強い雨風の中傘を差しながら高いとこから見たやろ。 あくる日の朝にもう一回行ったけど雲で見えへんかったやん。 雲海はきれいやったけどな。」

 「それ、日光の中禅寺湖展望台のことやろ。 磐梯山へ行ったときは合うてるけどな。 その帰りのことや。」

 我が家のおばはんの記憶、そして旅への思い入れなんて所詮こんなものだろう。 何かおいしいもの、特にアイスなど甘いものを食べたところの記憶はことのほか、いや、異状なくらいはっきりと覚えている。 これでは苦労をして連れて行く、いやご案内申し上げる甲斐が無い?

 と言う訳でこの計画は早くから練られていた。 日光だけではもったいないし・・・ならば尾瀬か? しかし尾瀬の草紅葉の見頃は10月始めで日光は中ごろだと言うし・・・また尾瀬へは水芭蕉の時期に訪れる計画だし・・・ならば日光へ行く前に谷川岳と照葉峡はどうであろうか。

 先日3日からはばあさんが三連休だったが、日光の紅葉には少し早く、私のわがままに付き合ってもらい千畳敷カールから栂池自然園の紅葉を堪能してきた。 今度はばあさんの要望をかなえてやる番だろう。 いや、病気のこともあり出かけられるときにできるだけ各地を訪れたいのが本音かな?

 16日17日とばあさんは連休だそうな。 そこで14日土曜日の夕方、

 「明日から一週間ほどええ天気が続くそうやわ。 二日ではしんどいし、水曜日一日休み貰わへんか?」


 ようやく明るくなり始めた上信越自動車道、東部湯の丸サービスエリア。 一杯の山菜うどんを仲良く分け分けしながら地図を広げ、さてどうする? どちらから回る?

 と言うのも実は昨日、出発間際になって思い出したことがあった。

 「この前行った時に那須へも行ったやろ。 御用邸を見たいて言うてな。 那須高原の紅葉、ちょうど今見頃らしいわ。 高速道路を使うたら日光からそない遠ないし、都合で行ってみるか?」

 「行きたい、行きたい。」

 日光、中禅寺湖付近の紅葉の見頃のこともあり、谷川岳から回る予定である。 そこへ那須まで行くとなるとどちらが良いかはあまり調べていなかった。 いや、その時間がなかったと言って良い。

 行き当たりばったりはいつものことでこんなことは良くあること。 だが調べがついているほうが無難かな? と予定通り谷川岳へ向かうことにした。 さて、ここで下した決断は・・・?


 高速道路が群馬県に差し掛かるとなんとも個性的な形をした山並みが現れ、それがことのほか多いように感じられる。 もっとも群馬県も山国ではある。 まあ、初めて走る道だし、物珍しさもあるのかな?

 7時30分、水上インターチェンジを出て道の駅水上町水紀行館へ到着。 ところが曇り空からパラパラと雨が落ちてきた。 その上強風が吹き荒れている。 今週一週間は良い天気ではなかったの?

 「こんな強い風やったら、ロープウェイなんかよう乗らんしぃ〜。」

 怖がりばあさんのこと、当然かな? それより運休と言うこともありうる? それほどに時々強い突風が吹き荒れていた。 しかしここまで来て先へ進まないわけにもいかないだろ?

 やがて通称モグラ駅と言われている土合駅が現れた。 なるほど、この地下に駅があるのか・・・。 その階段、486段もあるそうな。 おいおい・・・。

 ほどなく谷川岳ロープウェイの乗り場。 どうやら動いているらしい。 しかし、怖がり屋さんのためにもここは後回しにして先に一の倉沢へ行ってみよう。 その内に天候が回復してくれないかな?

 その先は土日、マイカーが規制されているらしいが平日は通行可能だそうな。 黄色く色付き始めている狭い道路を登って行く。 しかし通行に支障がある道でもなく、対向車とすれ違うのに苦労するほどでもない。 早くもリュックを担いで歩いている人もいるから歩行者保護のためかな?

 やがてマチガ沢。 雲がかかってはいるが少しだけ差し込んでくれた朝日に荒涼とした岩肌が輝いている。 そして深い谷、その迫力には圧倒される。

 ほどなく到着した一の倉沢の駐車場にはたくさんの車、そして大きな三脚を構えたカメラマンたち。 大きなリュックを担いで登山道を登って行く人の姿も見られる。

 山の頂は雲に隠されているが、大きな雪渓と迫るような岸壁が目に飛び込んできた。 そしてその威容をいさめるがごとく、色付き始めたばかりの森が周りを取り囲んでいる。

 なるほど、ここがロッククライミングのメッカなのか。 と言うことはたくさんの死者の魂が眠っているのだろう。


 さて、ロープウェイだが・・・。 少しは風も治まったようだ。 これなら大丈夫かな?

 「落ちたらどうしてくれるん。」

 「その時は一緒やん。 ここまで来て乗らんと帰る訳にいかんやろ?」

 乗用車専用の6階建ての立派な立体駐車場には驚かされた。 その前の広い駐車場にはたくさんの観光バス。 おかげで乗り場には長い行列。 やはり回り道したのが影響したらしく、結局30分ほど並ばされた。

 ロープウェイがなんだか新しそうだ。 聞けば昨年の9月に最新型に切り替えられたそうな。 普通、一本のロープで支えられているのが、ここでは二本である。 だから安定もし、揺れも少なく快適に、それも全員が座って乗れるのだろう。

 18人乗りのゴンドラが約4分間隔でフル回転。 乗車時間15分。 だがこれは強風のため速度を落としており、通常は7分だそうな。

 到着した天神平はかなり寒い。 ズボン下をはいてきて大正解。 温度計は14度を差していたが、時々吹く強風が体温を奪ってゆく。

 傾斜は25度位かな? 正面に見える格好のゲレンデがスキーをたしなんだ昔を思い出させてくれた。 全体に赤茶けた紅葉が少し地味な感じではある。

 ここから先、もう一つリフトに乗った山頂駅から帰りは歩いて下る予定だったがこの天気では・・・と諦めていた。 ところがその風も随分と治まってきたようである。 これなら大丈夫かな?

 そこで怖がるばあさんを半ば強引にリフトに乗せることに成功。 それも片道切符。 まあ、最悪帰りはまた切符を買えばいいじゃん。

 リフトを下りたところが天神峠。 周りの山は雲の中なれど視界は良好。 一層風が強くなってはいるものの360度のパノラマがそれを忘れさせてくれる。

 さすがにここまで登ると紅葉も雲の隙間から山肌を舐めるように流れているお日様の光を浴びて美しく輝き出した。 これはこの天神峠からの田尻尾根を歩いて下るしかないだろ?

 ところがロープウェイ乗り場の売店でおにぎりを売っていたのに、歩いては下れないだろうと買わなかった。 これは大失敗。 リュックの中身は朝食用に持ってきたパンの残りとわずかなお菓子だけ。 水とお茶、その他雨具などは入っているが・・・。

 そうそう、先日栂池自然園で、

 「ここで温かいコーヒーが出てきたら言うことないんやけどな〜。」

 と言っていたので今回は用意してある。 そうだ小さなカップ麺もあるじゃん。 しかしこの強風では火は使えないだろう。 ならば持ってきた意味は無い?

 ところが下り始めると・・・これはかなりの山道、それもほとんど岩場ではないか。 ばあさん大丈夫かな? 手を差しのべ足場を支持しながらゆっくりゆっくり、少しばかり下ってみた。

「まだ山を歩くんは3回目やで。 せやのにこんなところへつれて来るんかいな。 あんまりやろ。」

 それももっともなこと、だが早くも10分ほど下ってしまった。 こうなれば登るより下るほうが得策かな? まあ鎖場などがあるとは聞いていなかったし、注意をすれば何とかなるだろう。

 そんな怖い思いをさせたご褒美が各所で現れ、時々立ち止まって美しく色付いた木々や山々を眺めるばあさん、

 「歩いたさかいこの景色が見られるんや。 なかなかええもんやろ?」

 「そらそやけど、やっぱり怖いわ。」

 やがて谷川岳への登りとの分岐点。 そこからは木道が設置されていた。 40分のコースをおおかた倍はかかっただろうか。 ちょうど12時、無事ロープウェイ乗り場に到着。

 風も弱まり少し晴れ間も覗いているが、谷川岳は最後まで雲の中に隠れたままその姿を見せてくれることはなかった。 だが正面の大きな山にかかった雲はようやく取り払われ、山全体がくっきりと眺められるベンチに座り、わずかなパンで空腹を満たし、下りのロープウェイに乗り込んだ。

 良く頑張りました。 次は登りに挑戦する?

 「もうええわ。 うちにはこれが限界や。」


 ロープウェイ乗り場が大変なことになっている。 我々が登った時の待ち時間が30分。 行列はその5倍、いやそれ以上だろうか。 これでは何時間待たなければならないのだろう。 いや、時間は1時を過ぎている。 今日中に乗れるの?

 大きな駐車場にはほぼ満車の観光バス。 その上まだ次から次へと到着している。 今日は何曜日? 昨日の日曜日は好天だったらしいし、どんな状態だったのだろう。
旅のアルバム 谷川岳天神平


 照葉峡は大小11の滝が見られる渓谷で、その距離は11Kmもあるそうな。 ところが道幅が狭くこれでは大型バスは通れない? ゆえに比較的静かな趣である。 ようやく青空も広がってきた。

 駐車場はないが道端に何箇所か広いスペースがあり、結構停めることができる。 しかし平日の今日でこの車。 それが休日となると・・・考えるだけで恐ろしい。

 登るに従い、だんだんと紅葉の色付きがよくなってきた。 11もの滝、全てを確認することはできなかったが、三つ四つは見られたかな? ここは車で通過するのではなく、歩いて散策する場所だろう。 しかし歩道もなく、車道を歩くのでは魅力半減?

 渓谷を過ぎると今度は紅葉した山々が現れた。 しかし少し色あせ始めていたかな? もはや晩秋の気配である。 ほどなく奥利根水源の森の看板。 園内を一方通行で一周することができるそうな。

 しかしほとんど地道、それもひどいデコボコ道ではないか。 なに? 制限速度20Km? これでは制限などいらないだろ? 20Kmなどで走れない。 ソロリソロリ。 6Kmちょっとらしいが、これではどれくらい時間がかかるの?

 このあたりから坤六峠(こんろくとうげ)付近までは全山紅葉・・・いやどちらかと言えば黄葉かな? 山全体、傾き始めた太陽の照明を受け最後の輝きを放っている。 これぞ日本の秋の姿であろう。 なんと美しい・・・。

 そんな山の姿は鳩待峠への分岐あたりまで見られる。 今日から尾瀬へのマイカー規制が解除になったそうな。 走ってみたいがその時間は無さそう・・・かな? 夕暮れが近くなり、宿も決めなくてはならない。


 泊まりは尾瀬戸倉温泉でも良いが明日のことを考えて少しでも先のほうが良いかな? そこで片品温泉まで走ってみた。 しかしどの旅館も民宿のような小さなスキー宿ばかりのようだ。

 ならばと尾瀬岩鞍スキー場にある岩鞍リゾートホテルへ。 時間は5時前。 この時間でも夕食を用意してくれると言うのでチェックイン。 早くも薄暗くなってきた。

 一泊二食 13800円。 和洋室で食事もまずまず。 静かな夜に爆睡。


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