旅 日 記
弘前ロングステイ
八甲田 毛無岱 2007年10月6日(土)
今日から3週間、つかの間の弘前市民である。 このあたりは新興住宅地らしく、とても静かで昨夜はぐっすり。 それだけ疲れてもいたのだろう。
そして今朝は我々を歓迎してくれているような快晴の空が眠気を吹っ飛ばしてくれた。
八甲田ロープウェイは9時始発だが今日は3連休初日の土曜日。 混雑すること間違いない。 しかし、ロープウェイで登ってしまえば後は問題ないかな?
そこで6時30分に出発した。 ロープウェイの駐車場には7時40分に到着。 さすがにまだ車は少ない。 先着の皆さんものんびりムード。 だが我々は早速乗り場へ行き、片道切符を買い、そのまま並ぶことにした。 なに? 2番目? しかしその後皆さんも並びだすとすぐに50人ほどの列になっていた。
8時を過ぎて観光バスも到着し、瞬く間に長〜い行列。 となるとさすがに運行を早めてくれるらしい。 ラッキー。 30分早まった始発ロープウェイの後ろの特等席に陣取る。
陸奥湾と青森市内、そして津軽半島の一部が見えているが、青空のわりには見通しが良くない。 天気が良すぎて暖かいのかな? その上眼下には冴えない紅葉、5年前はもうちょっと色付いていた? やはり随分遅れているのだろう。
到着した山頂駅は風もなく、寒さは全く感じない。 空は見事に晴れ上がり、雲ひとつなく視界も良好。 これ以上無いハイキング日和である。
今日は八甲田ゴードラインを前回とは逆の方向へ歩き出す。 早速眼下に毛無岱の草紅葉が見えてきた。 5年前、わずかに垣間見たときのことを思い出す。 今日はあそこまで下るのか・・・楽しみ楽しみ。
やがて三叉路が現れた。 2002年に歩いた時はこのあたりで雨が降り出し、慌ててロープウェイ乗り場へ急いだっけ。 左へ行けば前回歩いた道、だが今回は右へ、皆さんが並んで歩くコースとは逆の田茂萢岳を目指した。 この方が静かだし、また毛無岱も見られるだろう。
しばらく進むと田茂萢湿原が見えてきた。 こんなに美しくて素晴らしいところだったのか。 草紅葉と沼の水がお日様に照らされて輝いている。
周りの山もまだらに色付いている様がまたいい感じ、このまましばらく居座りじっと眺めていたい気分である。 だがここで満足している場合ではない。
ところが田茂萢岳から眺めると大きな湿原が見え、たくさんの人が佇んでいる。 あれが湿原展望台かな? ならば行くしかないじゃん。 そうなると合流点からは人の波に逆らって歩かなければならない。 皆さんにちょっとご迷惑をかけたかな?

その甲斐がありました。 こちらも素晴らしい景観で見事な草紅葉にうっとり。 遠くに町が見えている。 青森市内だろうか? となるとあの青いところは陸奥湾?
休憩がてらしばらく楽しみ、本日のメインイベント、毛無岱へ向かった。
少し登山道を登ると、やがて、右、毛無岱、酸ヶ湯の標識。 しかしいきなり急な下りじゃん。 それもすごい山道。 岩や木の根っこに気をつけなければならず、所々ぬかるみもあり、滑りやすく、とても歩き辛い。 お前達素人が来るところではない! と脅されている? ばあさん、悲壮な顔をしている。
「昨日、あの栗駒山を登れたんやから・・・。」
と励ましながらなんとか下って行く。
大きなリュックを担いで登って来られたベテランのお方は我々の様子をどのように見ておられたのだろう。 その後は人影も少なく静かな自然の中を楽しみながら、いや大いに不安を抱えながら歩き続ける。
たまに垣間見える今登ってきた田茂萢岳の斜面の美しい緑と、そこに散りばめられた可愛い紅葉が励ましてくれてはいるが、ばあさんはそれどころではない?
しばらくすると後ろの方から人の声が聞こえてきた。 しかし瞬く間にそのグループに追い越される。 それからは人の数が次第に増えてきたが、そのほとんどは我々同様、小さなナップサックのハイカーじゃん。 そんな人たちの姿を目にしてなんとなく安心した? だが歩く速度は問題にもならない。
それもそのはず、田茂萢岳から上毛無岱までは50分の行程とあるが、我々は倍近くかかったかな?
やがて木道が現れ、美しく色付いた紅葉と見事な草紅葉を眺めながらルンルン気分で快適なハイキングを楽しむ。 ようやくばあさんの顔もほころび、目が輝きだした。 この落差はなんとしたこと?
「この景色が頑張った者だけに与えてもらえるご褒美や。 来て良かったやろ?」
だが、かく言う私もこれほどとは思わなかったのは事実かな?
上毛無岱のベンチに腰を下ろし、おにぎりをほおばったのは12時少し前。 目の前には少し大きめの地塘も見られ、のんびり、ほっこり、これはおいしくない訳、ないじゃん。 このままじっとしていたい気分である。
「ここまで来れて良かった〜・・・。」
とばあさん、しみじみ。

しかし、それだけで終わらなかったのである。 やがて階段が現れ、数段足を踏み入れた途端、
「わぁ〜・・・。」
ばあさんはそのあとの言葉がでてこない。 これはこの世のものと思えず、ここはどこ? まさに天国じゃん。 えもいわれぬ光景にただ黙って眺める二人。 いや全ての人がしばらくは立ち止まっていた。 そうか、そのためにこの階段は少し広めに作ってくれているのか。
実は八甲田山にもう一度来たかった理由がこれだったのである。 雑誌で見たこの下毛無岱の写真が目に焼きつき、一度生で見てみたい・・・それがこれだったのか。 この好天の中で、また絶好のこの時期に来られたとは・・・なんと幸せなことなんだろう。
5年前、八甲田ゴードラインから霧が晴れた一瞬に垣間見た毛無岱で満足していたのも事実である。 だが近くで見た景色は全く違うものではないか。 これは今年の紅葉狩りを東北に決め、歩くきっかけを与えてくれたばあさんにも感謝しなければなるまい。
階段を下りきり、その天国の世界、下毛無岱に足を踏み入れ、振り返ってみると・・・。 もうこれは何も言えない。 言葉にならない。 こんな世界がこの世にあるの?
それほどに素晴らしい紅葉、そして草紅葉が目の前にあり、また周りの山々がどっしりとそれらを支えて見守っている。
「こんなん見たら、これからはどこの紅葉を見てもつまらんように感じるやろな〜。」
とばあさん。 おいおい、それを言っちゃ〜おしまいよ。
余韻を楽しみながら鼻歌気分で木道を歩き、ようやく下毛無岱を後にした。 この間たったの1〜2時間だったが、夢見心地の、贅沢な、そしてなんとも優雅な時間であった。 こんな経験は後にも先にも、もうないかもしれない。



旅のアルバム 八甲田毛無岱
ところがまだ地獄が待っていたのである。 酸ヶ湯温泉まではことのほか厳しい下りが続き、その上最後は道が崩れていた。 とうとうばあさんの足が前に進まなくなる。 手をとり、励ましながらなんとか無事に到着。 ふぅ〜。
酸ヶ湯温泉2時25分発のバスで二駅、ロープウェイ乗り場へ戻ると駐車場に入れない車で大混雑、この時期の休日だから当然のことだろう。 朝一番に来たのが大正解であった。
帰り道、前回も浸かった温湯温泉で一風呂浴びて登山の疲れを癒し、帰り着く。
それにしても二日連続の山歩きなど昨年までなら考えられなかったこと。 それも昨日は真っ赤な栗駒山、そして今日の毛無岱・・・その素晴らしい景色を、紅葉を見られた満足感、充実感・・・ばあさん、いや私もよく頑張りました。 この歳でもやればできるじゃん。
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