◇東北 PART-1 八幡平 2002. 10. 5〜6 (土〜日)


 長年の夢であった東北への旅がようやく実現。 車の整備も済ませ、準備万端。 期待と長距離運転への少しばかりの不安が入り混じった複雑な気持ちを乗せ、5日の夕方4時前に出発。 瀬田東から名神高速、北陸道を利用。 聖篭新発田インターチェンジからは国道を日本海に沿って北上。 早朝の鳥海ブルーラインを経て秋田、能代から鯵ヶ沢を目指す1050Kmのロングドライブである。

 今回は珍しいことに7月末、宿泊先を予約。 奥方様も8日間の休暇を申請。 ハイシーズンのため安全を期した。 日程も12日〜14日の三連休を避け、その前後どちらにするか大いに悩んだのであるが、私なりにいろいろ問い合わせもし、この予定になった次第。

 紅葉の最盛期に出会うことは至難の業である。 八甲田山は10日前後、十和田湖は15日〜20日、八幡平観光協会のお方は、「どちらかといえば連休前をお勧めします。」 ならば、2対1で連休前。

 しかし、早めの予約はリスクも大きい。 案の定、6日の日曜日までの天気は何とか持ちそうだが、月曜日から水曜日までの予報が良くない。 なんだか不安の多いスタートとなった。

 尼御前サービスエリアで夕食。 車の量も少なくきわめて順調。 新潟県に入り、米山サービスエリアでガソリン補給と休憩、仮眠。 だが、今日は少しも眠気を覚えない。 やはり気が張り、興奮状態なのか? 今朝も昼過ぎまで眠るつもりであったが、いつものように目覚め、その後はほとんど眠れなかった。

 眠れないとなると、いろいろな考えが頭の中をよぎっていく。 このまま走れば早すぎて、夜明けの鳥海ブルーラインを走るにはだいぶ時間調整が必要になってくる。 ならば、天候のこともあり先に八幡平に行けないか? だが、明日は日曜日。 早朝に着かなければ車が混むことが目に見えている。 道路時刻表を開き、急ぎ時間を計算。 9時前には八幡平に着き、5時には鯵ヶ沢に到着できそうである。

 最終的には奥方様の判断に任せることにした。 のんびりと日本海を眺めながらのドライブか? それとも少し強行軍だが、八幡平の紅葉見物か? 奥方様は後者を選択。 そうと決まれば先を急がねばならない。

 あの綿密に立てた計画ななんだったのだろうか? やはり、この旅日記のサブタイトル通り、行き当たりばったり? 我々にはきっちりとした旅行計画など必要ではなく、また似合わない・・・と言うこと?

 高速道路の終点、聖篭新発田インターチェンジから本庄市まで。 道路時刻表では4時間15分の行程であるが、4時間以内では走りたい。 深夜の国道は通行量が少なく、土曜日のせいかトラックもあまり見かけない。 幸いにも地元の庄内ナンバーの乗用車が途中までかなりのスピードで先導してくれ、必死に追走。 なんと3時間35分でゴォォール! ひょっとして、これはこのあたりでの新記録じゃ〜ない? これはスゴーイ!

 本庄市からは海岸線を離れ内陸へ。 車にはほとんど会わなくなった。 明かりも少なく、空に輝く無数の星。 大曲、角館を経て、夜が白み始めた抱返り渓谷に到着。 時計は5時15分を指している。

 周りが明るくなるのを少しばかり待って車を離れた。 空には雲が多いがあまり寒さは感じない。 当然ながら人影はなく、『熊に注意!』 の立て看板に少々ビビリながら、10分ほどの赤い吊り橋まで散歩。

 そこから見える抱返り渓谷は、静寂の中に清流と雄大な森に包まれ、なんとも素晴らしい雰囲気。 まだまだ紅葉には程遠いが、緑が溢れる眺めも見ごたえ十分。 だいぶ奥まで遊歩道が続いているらしいが、その余裕はない。 抱返り神社でこの旅行の安全と、紅葉の時期にまた訪れることが出来ることを祈願して先を急ぐ。

 田沢湖町から八幡平へ向かって間もなく、赤い旗を振った警察官に停車を命じられる。 なに? こんな朝早くから取り締まりィ〜? シマッタ〜! 何キロオーバー?

 「おはようございます。 ご旅行ですか?」
 「はい・・・。」
 「お気をつけて楽しんで来て下さい。」 

とタオルを二本もくれた。 我が心臓バクバク。 昨夜から国道をぶっ飛ばしてきた我が身には、あまりにもタイミングが良すぎる。 あ〜びっくりした〜。

 玉川ダムを過ぎると少しずつ色付き始めた木々が目に付きだした。 道路際には、ところどころに止めてある車。 どうやらきのこ狩りらしい。 そう言えば、先ほど貰ったタオルには 『お土産はたくさんの収穫よりも無事のお帰りを。 角館地区山菜採り事故防止協議会』 と記されている。 なるほど、納得・・・。

 朝早くからご苦労様でした。 おまわりさん。 そしてありがとう。 無事に帰れるよう安全運転を心がけます。 少し反省。 シミシミ・・・。

 玉川温泉を過ぎ、高度が増すにつれ紅葉が山全体に広がってきた。 通行量はまだ多くない。 これ幸いと何度も車を止め、素晴らしい眺めを堪能する。 やがて八幡平アスピーテラインへ。 曇り空だが見通しは悪くない。 ブナ林が黄色に色付き、その先には遥かな山並み。 その景観は正に雄大そのものだ。 ところどころで硫黄の臭いとともに温泉の蒸気が吹き上がっている。

 周りの木が黄色のブナ林から濃い緑の青森とど松に変わり、ほどなく八幡平山頂駐車場に到着。 まだ車も人影も少ない。 時間は8時10分。 係りのおじさんが出勤したところらしく、手には箒を持っている。 現在は標高1000m辺りまでが紅葉の見ごろらしい。

 かなり強い風が吹き、少し寒い。 だが、さらに上を目指して登っていく人がいる。 八幡沼などを巡る1時間30分ほどのハイキングコースがあるらしいが、我々にはこの強風の中へ飛び出す勇気はない。

 そう言えば、青森とど松の木や枝や葉の全てが風にあおられて同じ方向を向き、樹氷と同じようなえびの尻尾のようになっている。 また、枯れた木も多い。 如何に苛酷な自然環境であるか、想像を絶するものがあるのだろう。

 引き続き八幡平アスピーテラインを岩手県側へ下ることにした。 深くて広い雄大な谷の遥か彼方に、岩手山の大きな山裾が広がっているが、山の半分は雲の中。 その谷にはベージュの絨毯を敷き詰めたような草原や、緑と黄色のまだら模様の林。 ところどころには沼の水が光り輝き、とても変化に富んだ景観が広がっている。

 見上げる山には色鮮やかな紅葉。 だが何箇所かこの風景に似合わないガレ場もあり、そしてそのガレ場を覆い尽くさんばかりに茂りだしているたくましい木々。 またそれがとてもカラフルだ。

 目の前のなだらかな山には、いろいろな色に染められた美しい木がバランスよく点在している。 まるで緑のキャンバスに貼り絵を施したごとく、とても素晴らしい。 これはいくら見ていても見飽きることはない。 見よう次第では、緑の牧場に牛や羊たちがのんびり遊んでいるようにも見え、心も軽く、気持ちもウキウキ。 とても面白く、また楽しい。

 東北自動車道の松尾八幡平インターチェンジが案外近いらしく、登ってくる車がだんだん多くなってきた。 御在所の駐車場には早くもたくさんの車。 さすがにここまで下って来るとあの強風も治まり、とても穏やかだ。

 見上げたスキー場の紅葉。 もう何も言えない。 これ以上、どんな色の絵の具も足して塗る必要がない、いやできない。 それが日の光に輝き・・・。 もう最高! このまま夕暮れまでボ〜っと眺めていたい気分。

 レストハウスの前には売店が並び、いい臭いが客を引き寄せている。 こういうものには目がない奥方様。 早速フランクフルトソーセージ、おはぎ、ジャガバターにソフトクリーム・・・。 ん? それって何かバラバラじゃん!  だが、なにをどう食べてもこの景色、この空気。 まずいわけがない。

 松川温泉を経て今度は樹海ラインを上り、ふたたび山頂を目指す。 樹海ラインの紅葉も負けず劣らず見ごたえ十分。 その上こちらには渓谷も見られ、流れる清流がなお一層爽やかな雰囲気を醸し出している。

 山頂近くの籐七温泉の辺りはあちらこちらから湯煙が吹き上がり、硫黄の臭いも充満し、かなり鼻につく。 そのせいだろうか? 青森とど松の群落はすっかり枯れ果て、残された白い幹だけの姿がなんとも物悲しく、哀れさえ覚え、自然の節理の厳しさを教えてくれている。

 山頂の駐車場は満杯。 周辺には車が溢れている。 到着した後生掛温泉も駐車場から溢れた車が道路にまで止めてある。 運良く、入れ違いに温泉のすぐ前に止めることが出来、まずは後生掛温泉自然研究路を散策。

 ここも湯煙と硫黄の臭いが漂い、温泉が湧き出している沼や黄色に変色した岩肌など、火山地帯ならではの荒涼とした風景に自然の営みの偉大さを実感。 石楠花茶屋で黒い温泉卵。 名物らしいが中身は同じ?

 温泉は長屋のような建物と古びた湯船ながら、少し濁ったお湯はとても心地良く、徹夜運転の疲れも汗と一緒に吹っ飛んでゆく。 打たせ湯や露天風呂などをゆっくり、ゆったり、のんびり、ほっこり・・・。

 汗を拭き拭き奥方様を待つ。 だが、奥方様はなかなか出てこない。 かれこれ20分も待っただろうか? 汗もとうに引いてしまった。 何か異変でもあったのか? 女風呂もかなり出入りは多いが・・・、まだ姿は見えない。 また10分ほど経過。

 いよいよ辛抱たまらず、係りのおばさんに中の様子を見てもらうように頼んだ。 おばさんが中に入るのとほぼ同時に、さっぱりとした呑気な顔の我が家のおばはんが満足そうな顔をして出てきた。

 「あまり心配さすナァ〜!」 
 「そんなに長く入っていたァ〜?」 

 全く悪びれた様子も、反省の言葉も無い。 なに?、肩の凝りも取れた? そりゃ〜、そうでしょうとも! プンプン! おばさんや周りの人に平謝り。 カッコワル〜・・・。 道路に止められた車の列は一段と長くなっている。

 変化に富んだ大自然と個性豊かな紅葉。 それと東北らしいひなびた雰囲気溢れる温泉。 雄大な八幡平に身も心も魅せられ、すっきりと心も晴れやかに、北を目指そう。

 鹿角八幡平インターチェンジから東北自動車道を利用。 花輪サービスエリアで稲庭うどんと比内鳥スープのソバの昼食。 これがどちらもたまらなくおいしい。

 大鰐弘前インターチェンジから弘前市内へ。 奥方様はガイドブックでケーキ屋さんを見つけてしまった。 弘前まで来てケーキを買うのォ〜? 初めての土地。 それに小さな地図。 簡単にわかるわけがない。 市内をウロウロ。 やっと見つけたパリ亭でケーキを買って戻ってきた奥方様は、若い女性の店員さんの応対振りが爽やかで感じが良かったらしく、感心を通り越し、むしろ感激すらしている。

 少し時間をロス。 岩木山へ急ぐとしよう。 弘前城を右に見て岩木川を渡ると、いたるところリンゴの木。 それも皆たわわに実っている。 車の窓から手を伸ばせばいくらでももぎ取れそう。 淡いローズピンクのリンゴがとても愛らしく、まるで木に咲いた可愛い花のようだ。

 曇り空にうっすらと、大きな 『おいわきやま』 が見えている。 登りに差し掛かり、岩木山観光りんご園を過ぎると、りんご畑やさとうきび畑が広がるのんびりとした優雅な雰囲気の高原へ出る。 今度はさとうきびを焼いている売店が並び、香ばしい香り・・・。

 津軽岩木スカイラインは急な登りとカーブの連続で、チェンジギアはセコンドでも目一杯のことも多い。 ブナや雑木林の中、高度はどんどん上がってゆく。 雲がだんだん厚くなり、景色はぼんやりとしか見えない。 木々の色付きも濃くなってきたが、濁ったような茶色で空の様子に合わせたように、何か地味?

 終点の八合目の広い駐車場に止まっている車は20〜30台くらい。 強風が吹き荒れ、速く流れる雲に山頂が見え隠れしている。 九合目までのリフトが動いてはいるが、我々にはトイレを済ませ、温かい缶コーヒーを買うのが精一杯。 見えている食堂でコーヒーでも飲みたいが、それが出来ないわけがある。 いかに厚かましい大阪のおばちゃんでも、持ち込みは・・・。

 見晴らしの良いところに車を移動。 車内の特設喫茶店でケーキ付きのコーヒーブレイク。 奥方様が開けたパリ亭の箱からは、おいしそうなケーキが四つ。 いつものことながら、当然のようにおばはんが三つ。 その上人の分まで取りに来る。

 なに? このケーキなら毎日でも食べたい? ケーキだけで弘前までは絶対に来ないぞォ〜。 だが、この鬼ばばあのことである。 なにを言い出すかわからない。 窓からの眺めは相変わらず冴えない。

 山、小川、田、畑。 これぞ田舎の確固たる田園風景。 奈良も昔はこのような風景であったなァ〜・・・などと感傷に耽っているうちに鯵ヶ沢到着。 時間は4時20分。 おおむね予定通り。

 夕日が美しい千畳敷まで足を伸ばしてみようか? 市内を抜けるとイカのカーテンが現れた。 イカを吊るして干してある姿がカーテンに見える? そう言えばそうかなァ〜。 海岸通りにたくさんの小屋が並び、イカを焼くおいしそうな臭いが鼻をくすぐり、食欲をそそる。 思った通りこれはうまい。 食事前でなければもっと食べたいところだが・・・。

 海は穏やかながら雲は厚く、夕日は望めそうにない。 今日の最終目的地に着いた安堵感からか、急に疲れも覚える。 無理は避けて引き返そう。

 高台に建つまだ新しいホテルグランメール山海荘の部屋からは、海も空も同じような色に見え、境目が良くわからない。 30分ほど熟睡。

 レストランで海の幸一杯のおいしい夕食。 新鮮なあわびに風呂上りの生ビール。 これに勝るものはない。

 「ちょっと飲みすぎやでェ〜。」 
 「あんたはケーキをあんなに食べたやんかァ〜。」 
 「ケーキとビールは違うやろォ〜。」

 と、勝手にオーダーストップ。 それはないやろォ〜? トホホー・・・。

 給仕をしてくれた30歳くらいの青年の風貌と言い物腰と言い、そしてしゃべり口調と言い・・・、どこかご当地出身で奥方様がご贔屓であった舞の海関にそっくりで、ほんわかと良い雰囲気にしてくれる。 飲みすぎたのはあなたのせい?

 充実した一日目が終わり、深い眠りについた。


東北各地には2007年10月に再訪。 その模様と写真は
みちのく夫婦旅 の各ページとそのスライドショーでご覧ください。