旅 日 記


いざ、南九州へ


佐多岬 2004年2月18日(水)


 昨日の曇り空はどこへやら、快晴の空のもと佐多岬を目指して大隅半島を南下する。まずは垂水市。

 垂水市と言えば森伊蔵の焼酎だろう。私はビールばかりで酒も焼酎も飲まないが、次男と三男の嫁のお父さんはどちらも焼酎がお好みである。ならばお土産に買って帰りたい。それも超有名な伊佐美とか森伊蔵。しかし出発前に調べてみるとそのどちらも地元ですら手に入れるのは困難だそうな。なに? 全国規模の抽選? これはどうにもならない?

 ところがいろいろ聞いているうちに幸運にも絶対名前を明かさない条件で森伊蔵のかめ壺焼酎4合瓶を一本なら譲ってくれるという人に出会えた。しかしどうしても2本ほしい。拝み倒して何とかゲット。ふぅ〜・・・。


 鹿屋市に入ると沿道に横断幕を掲げている人が増えてきた。なに? 鹿児島県一周駅伝? それも最終日? なるほど、パトカーを先頭に白バイに続いて選手が北上してくる。反対車線なのにこちらもノロノロノロノロ。鹿児島県の各市町村、12チームだそうな。なのに間隔も空き、結構時間がかかる。それぞれのチームに白バイが先導。カミさん、

 「鹿児島にもぎょうさん白バイあるんやね〜。」

 どうやら鹿児島県を馬鹿にしているようだ。今度鹿児島県知事に言いつけてやろう・・・。


 やがて大根占町。たしか神川大滝があったはず。ならば寄って行くか? だが向かった次の十字路に標識が無い。おじいさんを発見。これがのんびり、ゆっくりとした口調で懇切丁寧に説明してくれる。標準語を意識してくれたのだろうがさすがに少しイライライライラ。

 そこまで詳しく教えてくれなくても・・・ちょっと急いでいるのですが・・・でも聞いたのは私だし・・・親身になってくれているのだから感謝しなければいけないし・・・とここは腹をくくり最後までお付き合い。おかげさまで迷うこともなく到着。もっとも迷うような道ではなかったけれど・・・。こうなると標準語ではなく鹿児島弁で聞きたかった?

 深い森の中、勇壮に流れ落ちる美しい滝である。コンクリートで作られたダムのようにも見えるが、よく見るとやはり大きな岩だ。しかしこれは人が積み上げたとしか思えない。自然とは粋な演出をしてくれる。立ちのぼった水煙がお日様の光に照らされ、とても幻想的な雰囲気ではないか。

 見上げれば大きな赤い橋。先ほどの交差点を直進すれば渡れるのかな? こんな田舎には立派すぎる? いや、これはまた失言だったようで失礼、失礼。

 海沿いの道ながら天気が良すぎるのか? 大きな開聞岳が靄にさえぎられうっすらとしか見えない。

 やがて道の駅根占に到着しホッと一息。

 佐多町から佐多岬を目指す。走りやすい立派な道が続いているがここは九州最南端。と言うことは海に向かっているはずだろ? なのに見渡す限り山の向こうに山が連なり海の気配など全くない。やがて佐多岬ロードパークの料金所が現れた。

 この道路は今月いっぱいで閉鎖になるらしい。だが聞いてみるとまだ結論はでていないそうな。先送り? どちらにせよ県か町が買い上げるか、もしくは経費負担で落ち着くのであろう。企業側が開き直れば行政は弱いもの。いかに少なくても住んでいる人がいる限り捨ておくことはできないだろう。

 料金所を過ぎると南国ムードに一変。椰子の木、ソテツ、ガジュマル、フェニックスなどの亜熱帯植物が茂る中を快適にドライブ。青い空、深い緑・・・車は全く通らない。

 満開の桜・・・あのローズ色の花は・・・これも桜? 野生の猿・・・子供の猿も顔を覗かせ、キョトンとしている。なんとも可愛く心が和む。鶯の鳴き声もうるさいほどで、ここはもう春爛漫を通り越し、もはや初夏の趣ではないか。

 ようやく海が見えてきた。小さな島の岩の上に立つ灯台、大きなコバルトブルーの空にマリンブルーの海、周りは濃い緑色の森、そして大きな木々に囲まれて・・・まるで絵画の世界である。ここはどこ? これも日本? 改めて美しく変化にとんだ国であると実感。北緯31度の看板が見えてきた。カイロ、ニューデリーと同じ緯度だそうな。なるほど・・・この暖かさ・・・納得・・・。

 ほどなく到着した終点の駐車場では縄のれんを思い起こさせてくれる大きなガジュマルの木が迎えてくれた。停まっている車は5台ほど。

 九州最南端の白い電話ボックスから若い女の子が出てきた。どこの誰と、なにを、どんな気持ちで話をしていたのだろう。乗客ゼロの定期バスが静かに出発して行った。

 佐多岬までは少々アップダウンはあるが15分ほどだそうな。トンネルを抜けると静かな森の中の歩道が続いている。御崎神社でお参りを済ませ、食堂だったのだろうか、今や廃墟となっている建物をすり抜けるとやがてかなりの高台にある佐多岬展望台に到着した。

 遠くに大きなタンカー、その先には水平線、右を見れば変化にとんだ海岸線の向こうにかすんで見えている開聞岳、目の前には先ほどよりは随分大きく見える灯台、左にも海岸線が続く大きな海・・・九州最南端を実感するには十分な眺望である。

 展望台の中の最近ペンキを塗り替えたらしい真っ白な壁に早くも落書きが二つ。すぐ横には落書き禁止の貼紙、そしてその下に置いてある思い出ノート・・・。世の中ここまで進化したとはいえ、日本人はまだまだ発展途上? 何かむなしさを感じる。仕事とはいえ毎日ここまで通っておられる売店のおばさんは悲しげな様子で一言。

 「残念だね〜。」

 佐多岬ロードパークを下る途中、海岸の防波堤に座って足を投げ出しパンをほおばる。カミさん、今朝宿で売っていた焼きたてパンを買ってきたそうな。温かさは消えてもこれほどおいしいパンはないだろう。通り掛かった軽トラックのお方のやさしい笑顔にこの上ない幸せを感じる。春だね〜・・・。

 しばらく走ると標識が現れた。なに? 宗谷岬まで2700Km? 行ってみたいな〜北海道! 九州最南端まで来て北海道への旅情を感じさせてくれるとは・・・やってくれますね〜・・・佐多岬!


 あとは一路来た道を北上、鹿屋からは串間を目指しひたすら走る、走る、走る・・・。今日の泊りは都井岬の予定。だが志布志で4時を過ぎてしまった。その上少し疲れを感じる。ここは無理をせずこのあたりで泊まるのが賢明かな?

 そこでダグリ岬にある国民宿舎ボルベリアダグリに飛び込んだ。高台にあるまだ新しい宿だが10畳の和室しか空きがなく、二人で利用するなら一泊二食一人10800円だそうな。部屋から見えた大きな海に沈む夕日がぼんやりと霞んでいた。どうやら天気は下り坂らしい。

 地元の漁師さんなのだろう、たくましく日焼けをし、がっしりとしたお父さんたちが入れ代わり立ち代わり、大盛況の温泉に浸かり、夕食ではエビフライとステーキを追加。豪華なディナーで最後の夜は静かに更けていった。


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