旅 日 記


思いもかけないプレゼント


上高地 2013年10月27日(日)


 今年の紅葉・・・どこか行けたらいいな〜・・・それくらいの気持ちでいた。何分この歳である。もうそんなに遠出も出来ないだろうか。最近の長距離運転では疲労を感じていたのも事実。近場でもまだ行っていないところもあるだろうし・・・。それともう強いて行きたいところも無くなった?

 ばあさんも同じように考えていたようだ。もっとも彼女は別の理由かな? それはお金の問題。まあ、これだけあちこち行っていれば資金も底をついてくる? この先の暮らしも大切なこと。それももっともなことである。ならばもういいかな?

 ところが9月中ごろ、三男が

 「旅行に行くときのたしにして。」

とお小遣いをくれた。それも10万円。ありがたいことであり、なんと幸せなことか。さてどうする? 孫のために使うか? 二人して大いに悩んだ。だが彼の気持ちは? それが一番大切なこと。ここはありがたくご好意に甘えさせていただくのが礼儀かな? しんどい・・・なんて言っていたら罰が当る? ならば出かけるしか無いじゃん・・・と決断した時にはすでに10月も半ばになっていた。


 そうと決まれば旅行が好きで紅葉大好きなばあさんのこと。

 「信州くらいやったら大丈夫やろ?」

 「まあ、そやな〜。」

 「ほなもう一回小布施へ行きたいねん。その近くでどっか無いか? 1泊やったらしんどいし、2泊くらいがちょうどええんとちゃう?」

 いやはや、なんとも現金なものである。それからいろいろ検索が始まった。


 聞くところによると長野県への旅行客は上高地を押さえて小布施がリピーター率、一位だそうな。そう言えば我が家のばあさんでさえ2回も行っている。いつも、そこは前に行った・・・とか、初めてのとこがええ・・・などとおっしゃるお方がである。今回行くとなると3回目、私には信じられないことだが・・・余程お気に入りなのだろう。

 それはまあ良いとして信州と一口で言っても広い。さて、どこへ行く? 小布施と言うことは目的が栗の木テラスのモンブランだろ? その栗の木テラス、水曜日が定休日だそうな。秋のかきいれどきでも休むらしい。

 その上信州の紅葉となると結構行ってるじゃん。あとは八方尾根? それは歩けないばあさんには無理なところかな?

 「大町の奥に蔦温泉があるわ。高瀬ダムはどや?」

 「そんなん聞いたこと無いで〜。」

 「クロヨンダムもあるがな。せやけど紅葉はちょっと遅いやろか?」

 「クロヨンは大昔、長男が小さいときに行ったな〜。それとなんや階段がぎょうさんあったんとちゃう? それと小布施、えらい離れてるやん。」

 「それもそやな〜・・・。 ほなどないしたらええねん!」

 いやはや・・・。


 そうだ。秋山郷はどうだろう。小布施からもそんなに遠く無い。だが秘境と言われているところ。車で行くことはできるのかな? そこでいろいろ調べてみた。

 秋山郷は国道405号線が切明温泉で途切れている。ならば往復するしか無い? 近くには班尾高原やなべくら高原もあるが・・・。なに? そこはそれほど大した紅葉ではない?

 よく調べてみると切明から先に林道があり志賀高原へ抜けられるそうだ。だが紅葉の見ごろは10月末から11月始め? 案外遅いんだ・・・。志賀高原の紅葉は? もう少し早い? なんとも悩ましい限りである。さて、どうする?

 まあ、なにもかもうまくいく訳は無い。ならば今回は秋山郷の紅葉だけに的を絞るか? だが秋山郷と小布施だけならもったいない? 無理をすれば1泊で行けないことも無い? いや、それはもう無理な話?

 2004年の10月、信州の紅葉狩りに行ったときにも飯山まで高速道路を利用し、野沢温泉、志賀高原、白根山を回り、万座温泉まで一日で走ったっけ。我が家からはおよそ550Km。今回は秋山郷まで520Kmほど。その当時ならなんでもない距離だが、今は・・・? ならば松本あたりで一泊するか?

 松本・・・そうだ。もう一度上高地へ行こう。だが紅葉の時期は? 10月末ならもう遅い? でも雪を被った穂高を見るつもりならそれもまた良いではないか。あとは秋山郷の紅葉の時期と天候だけになる。そうか、小布施に行く日も問題か・・・。


 10月21日にはばあさんが、そして22日には私の診察予約がある。ならば23日の水曜日に出発するか? 天気次第で翌週の29日か30日かな? 28日の月曜日出発なら小布施へ行くのが水曜日になる。

 ところが今年の10月は大変な年であった。異常気象に台風の到来。それも新記録の6個だと言うから何をかいわんや。被害は各地に及んだ。挙句には二つの台風が同時に発生し、24日から26日にかけて日本近海を通過する始末。これでは出かけることなど到底出来ない。

 ネット検索をしていたら24日に秋山郷の紅葉が見ごろを迎えたとある。23日出発ならちょうど良かったのに・・・。29日の出発なら秋山郷が30日になり、もう遅い?

 それでも行くならここは一日でも早い方が良い? 28日の月曜日には台風一過の晴天が見込まれるようだ。だが月曜日の出発なら小布施が水曜日になる。ここでも栗の木テラスの休みが・・・。

 強行軍にはなるが月曜日に秋山郷、火曜日に小布施、帰りに上高地? それならまだ紅葉の見ごろには間に合う? 微妙? 秋山郷、宿は空いているのか? そんなことより体は大丈夫か?

 もうどうでもいいっか・・・。なんだか面倒になってきた。ならば今回は諦める? それも有りかな?


 まだ決めかねていた土曜日のこと。

 「明日の日曜日に出たらええやん。」

 とばあさん。

 「上高地、混むで〜。もうシーズンも最後やしな。天気も曇り晴れになってるし、そないええこと無いんとちゃうか?」

 さて、どうする? いろいろ悩んだ結果、最後はばあさんの一声。

 「行こ!」

 「そやな〜・・・。ほな4時に出発しょうか・・・。」

 いやはや、これじゃ〜今までと一緒じゃん。


 10月27日、日曜日の朝6時半、恵那サービスエリアで休憩。道中、ところどころで霧の中のドライブを強いられる。それが恵那山トンネルを抜け長野県に入るといよいよ激しくなってきた。だが松本が近くなるとようやくその霧にも開放され、曇り空からわずかばかりの青空も現れたが、山の上はどうであろうか?

 9時過ぎ、沢渡のバスターミナルに到着。目の前の森が見事に紅葉している。と言うことは山ではもう遅い? まあ、仕方が無い。ここまで来て登らない手はないだろう。雲が切れていることを祈るばかりである。

 車椅子も乗せて貰い、満員のバスが出発。釜トンネルを通過、大正池が近くなり車内から歓声があがる。車窓からは青空と穂高の雄姿、また周りの黄葉も最盛期を迎えたように輝いている。来て良かった〜。あれこれ何を心配していたのだろうか。

 10時過ぎ上高地バスターミナルに到着。空気は冷んやりとしているが風も無く、寒いと言うほどではない。これならばあさんも大丈夫だろう。

 早速河童橋を目指す。ひざに毛布をかけて車椅子に乗っているばあさん、梓川沿いのところどころぬかるむデコボコ道に文句タラタラ。少しくらい辛抱しなさいよ〜・・・。

 目の前にそびえる穂高連峰には雪が見られない。岳沢の雪渓も随分と痩せている? しかし西穂の峰々に見える白い筋は雪かな? いやそうでもなさそうである。穂高の白い頂を楽しみにしていただけにちょっと残念ではあるが、これだけの景観を見せられては・・・贅沢は言えない。

 河童橋は早くもたくさんの人、人、人・・・その上橋のたもとにお猿さんまでも・・・なに? 人の多さに驚いている? いや、余程人になれている証拠だろうか。

 ならば小梨平のキャンプ場まで行ってみようではないか。その先明神池まで連れて行ってやりたいが、小梨平から先はいかに平坦な道だとは言え山道にもなり、車椅子では無理な話だろう。今年の役目を終えた小さなカラマツの葉がはらはらと舞い落ち、ばあさんの髪を飾っていた。

 ほんの10分ほどなのに小梨平では上高地本来の静かな佇まいである。河童橋のあの喧騒はなんだったの? 清水川、中川を流れる水の美しさに驚いているばあさん。

 梓川に出てみると穂高連峰がより近くに見えていた。だが西穂高に雲がかかりだしたではないか。

 河童橋まで戻ってボチボチお昼にしますか。車椅子で橋を渡ったトワサンクで簡単な食事の後、ばあさん、アップルパイだそうな。いやこれは最初から孫へ贈る予定であった。いただいたアップルパイはやはりおいしい。ところがなぜかコーヒーを頼んでくれない。どうして?

 その理由はもう一軒、隣のお店でケーキセットをいただくつもりだったようだが・・・なに? 満席? その上長い行列ができている。と言う訳でコーヒーは幻に終わってしまった。どうしてくれるのよ〜。だがこれだけの人出ならそれも仕方がないかな?

 穂高の峰々も雲に隠れてしまったようだ。ならばお暇しよう。これで上高地も最後だろう。それもなんだか寂しいね〜・・・。


 帰りのバスも満員だが、そんなことより前へ進まない。観光バスも土日は乗り入れ禁止だが、10月20日から解除されているらしく、駐車場に入れないバスが狭い道路に溢れている。定期バスの運転手さん、慣れている道路なのに一苦労。相手は大型の観光バス、いかにプロの運転手とは言え、初めてこの上高地へ乗り入れる運転手もいるだろ? これはやはり観光バスも年中乗り入れ禁止にすべきでは無いだろうか?

 沢渡のバスターミナルには1時半に到着した。今日の泊まりはルートインコート松本インターにしようと電話で予約。時間はたっぷりとある。ならばもう遅いだろうが三度目の安房峠へ行ってみるか?

 ところが色あせ始めた紅葉、雲に隠された穂高・・・最盛期の紅葉を知っているものにとっては・・・まあ、時期が時期だけに仕方がないことだろう。

 峠まで登ると木々がまるで白塗りの化粧を施したよう・・・。穂高には雪がなかったのに? なんだか不思議な気がするが、季節は確実に進んでいるようだ。

 乗鞍林道は随分前から閉鎖されているらしい。そこで前川渡まで引き返し、乗鞍高原へ向かった。ここは以前に通過したことはあるが、そんなに記憶は無い。さて、紅葉は見られるのかな?

 まずは休暇村乗鞍高原の駐車場に車を止め、整備された木道を車椅子で5〜6分の牛留池へ向かった。3時を過ぎた森の中は静かな佇まいでそれなりの雰囲気だが、まわりも良く見えないくらいの逆光・・・そんなことよりここは紅葉とは縁のないところかな?

 一ノ瀬園地を含めて少し走ってみたが、少し色あせている紅葉もあり、乗鞍高原の紅葉はこんなものかな? いくつかある滝には行くことができないばあさんだし・・・。

 この乗鞍高原をわざわざ訪れた目的の一つは温泉である。日帰り温泉湯けむり館の乳白色の濁り湯にのんびりほっこり。時間は4時半、今夜泊まるホテルまではあと30〜40分である。


秋山郷 2013年10月28日(月)
小布施 2013年10月29日(火)


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