旅 日 記
日光東照宮
2001年10月17日
朝起きるとやはり雨である。窓からは山にかかる雲が目の高さに見え、手が届きそうだ。仕方がない。今日は東照宮だけを見て帰るとしよう。
走り出した途端、何を思ったのか突然、那須の御用邸を見てみたい・・・と言い出した。日光とは逆の方角だが・・・しかし、もはや急ぐ理由も無くなっている。ならば寄って行くか?
雨にもかかわらず、なぜか澄み切った水が流れている箒川。吊り橋も何箇所かあり、他にも見所は多そうだが、何分この空模様ではどうにもならず、道の駅湯の香しおばらから那須高原へ向かった。
牧場が続く道路沿いの畑の土は真っ黒じゃん。やはりここは火山地帯である証だろうか。コスモスの花が雨に打たれてかわいそう。だが静かな森の木々は雨に洗われ、生き生きと鮮やかな緑に蘇り、しっとりと美しく落ち着いた雰囲気を漂わせている。その緑に溶け込むようにレストランや博物館などがあまりでしゃばらず、控えめに並んでいるのがとてもいい感じである。
ほどなく一軒茶屋前の交差点。地図によると御用邸はこのあたりだが、いくら探してもわからない。交差点の前にある無人の交番と少し林に入ったところの細い地道の入り口にある進入禁止の標識がどうもそれらしい雰囲気だが・・・。御用邸と思われる林に沿って走ってみるが、すぐにゴルフ場の看板。そしてその先には美しい林のトンネルが続いていた。仕方がない。これは諦めよう。
可愛い名前に誘われて向かったりんどう湖は遊園地で人影もなく、結局那須高原のセンスの良さが感じられる佇まいと、しっとりとした空気を味わっただけで再び来た道を引き返す。なんのこっちゃ!
塩原温泉は相変わらず小雨が降っていた。どうせ霧で見通しは悪いだろうが、日塩もみじラインを走ろうか。黄色に染まった林の中は早くも濡れて落ちた葉っぱが道路の幅を狭くしている。登るに従い枯れた木が多くなってきた。早くも晩秋の気配?
だが峠を越え、下りにかかると視界が開け、思いもかけず見事に紅葉した山々が目に飛び込んできたではないか。あいにくの雨にもかかわらず割と遠くまで見通せる。昨日見た磐梯吾妻スカイラインに負けず劣らぬ風景に、通る車も少ないのをいいことに度々車を止める。
色鮮やかなもみじ越しに流れる美しい滝は太閤おろしの滝と言うそうな。

それからなお下って行くと、今度はまだまだ緑色をしたもみじの並木がどこまでも続いていた。もみじラインとはよく言ったもので、その名称に納得・・・。これらのもみじが色付くのは当分先になりそうで、頂上から麓まで、長期間紅葉狩りが楽しめるのだろう。
鬼怒川温泉は通過。今市から杉の大木が見事に並ぶ日光街道を走り日光東照宮へ向かう。しかし駐車場がわからず人と車が多い中を20分ほどウロウロウロウロ。ようやく駐車して早速入場券を買い、言われるまま前の庭園へ入った。だが何か変。よく見てみると入場券には二社一寺共通拝観券と書いてある。しかし予定は東照宮だけだし他にはあまり興味もなく、その上この雨である。なに? 東照宮の駐車場はもう一つ奥? 仕方がない、傘を差し水溜りを気にしながら10分足らず歩いて改めて券を買い直す。二人で600円の余分な出費にケチな、いや無駄使いが嫌いなおばはん、少しオカンムリ。
40年近くも経つとやはり色もあせるのだろうか? 若いときに見た陽明門はもっときらびやかですごいと感じた記憶がある。
ところが目の前の建物は思ったほど派手さはなく、かえって重厚な趣さえ覚えるのは気のせいか? あるいは歳のせい? だが絢爛豪華に装飾された建物やそこに飾られているたくさんの彫刻などはさすがに美しく、素晴らしい。
雨を気にしながら三猿や眠り猫、薬師堂の鳴き龍など、一通り見終わった女王様は何か浮かない顔をしている。
「あんなに来たかった日光の東照宮はこの程度のもんやったんかいな。皆が言うほどたいした事ないやん。」
以前から彼女は神社仏閣とか歴史上のもの、美術館や博物館、古い町並みなどにはほとんど興味を示さない。美しい自然の山や海、そしてそこに咲く美しい花、それとおいしい食べ物、特に新鮮な魚と甘いものがあれば文句は言わない。私もほぼ同じであり、良くしたもので我々は似たもの夫婦である。
旅は人それぞれの目的と人それぞれの楽しみ方があって良いものである。我々とは反対にお寺参りや歴史散策などを好む人も多い。当たり前のことではあるが今日、改めて今までに行ったところを思い起こし、初めて気が付いたような新鮮な気分であった。
国道沿いの喫茶店で遅い昼食。雨のいろは坂を登るが周りは何も見えない。明智平も霧の中。中禅寺湖の湖畔に着き、どうやら雲の上に出たようで、少し景色が見えてきた。
念のため華厳の滝へ。駐車場には結構車が止まっているが、また音だけ聞きに行っても仕方がない。ならば奥日光へ向かうとしよう。
中禅寺湖の手前の大きな鳥居のところで半月山展望台への小さな標識。ガイドブックにも載っておらず、事前の知識は全くなかったのだが、なぜか引き込まれるように自然にハンドルを左に回していた。
土産物店や食堂、旅館などが立ち並んでいる割には人影も少なく、少し寂しい湖畔沿いの道は立木観音、遊覧船の乗り場を経て中禅寺湖スカイラインへ続いている。
色付いた木々の間から時折見え隠れしている中禅寺湖。雲の中から突き出た山々と、その下に広がる深い谷には鮮やかな紅葉。通る車も全くなく、キョロキョロ、キョロキョロ。道端に猿を発見。びっくりしたが猿も驚いたらしく、谷の方へ逃げて行ってしまった。
中禅寺湖展望台からは穏やかな男体山、その広い山裾には大きな中禅寺湖と湖岸の紅葉が見え隠れしている。雲の流れは極めて速いが見通しは良くない。
終点の半月山展望台から見下ろした山はぼんやりとはしているが絵の具、いやペンキの缶をひっくり返したような色に染められていた。今までにこんなに近くでこんなに美しく色付いた山を見たことがなく、寒さに震えながらしばらくじっと動けず。もっと見ていたいが、小雨に差した傘を吹き飛ばさんばかりの強風がそれを許さず、後ろ髪を惹かれる思いで展望台をあとにした。
中禅寺湖を左に眺めながら湖畔をドライブ。竜頭の滝にも立ち寄り、枯野が広がる戦場ヶ原を横切り、硫黄の臭いがたちこめる湯元温泉に着いたのは4時を過ぎ、早くも夕暮れが迫っていた。さて、どうする?
このまま帰ろうか? しかし日光の素晴らしい紅葉の余韻がまだ体に残り、何だかボ〜としている。ここは無理を避けてゆっくり体を休めたい。取りあえず観光案内所へ。
しかしほとんど満室だそうな。今日は何曜日? だが粘りに粘って何とか一部屋を確保。相変わらず降り続く小雨と少し強くなった風がホテルの前の木の葉を散らしていた。ロビーでお茶の接待をしてくれた女性が、お客様のお気持ちが通じて明日は雨もやむでしょう・・・と決まり文句を言ってはくれたが、天気予報は関東一円、明日も雨だそうな。
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