旅 日 記

大河内峠 春日渓谷

2003年10月16日

 国道21号線から国道19号線をひたすら走り、中津川4時。ここでも大いに悩まされる。塩尻まで高速道路を利用すれば高ボッチ高原のご来光に間に合うか? だが見られる保障は無い。雲海だけでも見ることができれば良しとするか? 相談しようにもぐっすり眠っているようだし起こすのも可哀そう。ならばここは通行料を節約するか? どうやら大蔵大臣のケチケチ精神が我が心にも浸透してきたようだ。

 高ボッチ高原6時15分。うっすらと霧がかかり、かなり寒い。そう言えば途中の奈良井宿では温度表示が1度を示していた。しかし山頂の駐車場へ着くころには高く上った太陽の光に溶かされるように霧も晴れ真っ青な空、雲一つなく見事な雲海の彼方には北アルプスの峰々、これって最高じゃん。

 槍、穂高・・・あれは? 少し小さめだがブロッケン現象だ。随分昔に見たことがあるがこれは珍しい。慌ててカメラを取り出しているうちにはかなく消えてしまった。残念! だが始めて見たカミさんは大感激、二度目の私もまことにラッキーであった。

 改めて南から御岳、乗鞍、穂高連峰、槍、常念、爺ヶ岳、鹿島槍、白馬三山。案内板を見なくてもある程度はわかる。

 山頂まで400mの標識に誘われてなだらかな斜面をゆっくりと登ってゆく。枯れた草に下りた霜がお日様の力で溶かされ、その水玉たちがキラキラと輝いて歓迎してくれているようだ。

 見事な雲海の上に頭の先だけ覗かせた小さな富士山、右を見れば大きな御嶽山、八ヶ岳も大部分が雲に隠されている。雲の隙間からはかすかに諏訪湖の姿も眺められ、ピンと張り詰めた空気が体をシャキッとさせてくれる。

 三脚を据え、大きなカメラを構えていた三人の先客は早くも帰り支度。

 「もう少し早く来ればブロッケン現象が見られたよ。」
 「下の駐車場から見ましたよ〜。」 

 どうもご親切様・・・。再び駐車場へ戻ると雲海はほとんど消え、北アルプスがくっきりと眺められた。わずかな時間だが太陽光の威力は計り知れないものがあるのだろう。

 茅野からビーナスラインへ、ほどなく蓼科湖。真っ青な空、そして青い水が澄みわたる湖岸ではかえでの葉が朝日に照らされ真っ赤に燃えていた。

 真向かいの白いホテルの後方の蓼科山が鏡のような湖面に逆さまに映し出され、これはまるで絵葉書の世界である。

 今日の泊りは白樺湖周辺? いや美ヶ原まで行けるかな? そこでまず王ヶ頭ホテルに電話。ダメ元だったのに幸運にも空室があると言う。となると少し急ぐ必要があるかな?

 道中の景色を楽しみながら到着したピラタス蓼科ロープウェイの山麓駅では少しばかり晩秋の気配が漂い、上の方はもはや遅いかもしれない。帰りかけている人に上の様子を聞いてみると、

 「美しいですよ。」

 では登ってみよう。

 観光バスが着いたところらしくロープウェイは超満員。付近は針葉樹林帯でダケカンバの葉が色付き、少し地味な感じになっているようだが周りの山はまさに秋本番。

 ところが到着した山頂駅は目の前が黒いごつごつとした溶岩台地で木と言えば濃い緑ばかり。その木はシラビソと言い、それが部分的に枯れはて白と緑のまだら模様になっている。縞枯れ現象と言うそうな。

 ここは坪庭と言うそうで北八ヶ岳の登山基地だそうな。そんなことも知らずに登って来たのだから何をかいわんや。下界の風景も全く見えず、秋を思わせるものは何もない。

 しかし、なにも登山をしなくても手頃な散策コースもあるそうな。これはこれでまずまずの趣だが我々は今回紅葉を求めてやってきた。ここを散策するよりもっと行きたいところがあり時間ももったいない・・・と早々に切り上げ、次のロープウェイで下りることにした。

 「なにしてんねん。往復1800円もしたんやで。二人で3600円や。もっとよう調べとかんかいな。」

 ご指摘はもっともなこと、これは面目ない。

 美しい周りの紅葉にしっとりと溶け込んだ女神湖から幸運にも無料開放されている夢の平スカイラインへ向かう。少し登ったところから真下に女神湖、そして遠くには小さく白樺湖も見えている。

 御泉水自然園へ寄ってみる。ここでも地味に色付いた木々とクマザサなどの緑が勢力を分かち合い、うまく調和が取れた静かな森だが、よく見ればいろいろな植物も豊富で、花が咲く美しい緑の季節のほうが魅力的なのだろう。

 やがてドラマチックな紅葉劇場の幕開けである。カーブを曲がるたびに舞台が変わり、次の場面が展開される。そのストーリーはつながっているようであるが、全く別な場面にも感じられ、見ている者に驚きと感動を与え、また次の場面への興味をそそらせてくれる。

 あまりにも素晴らしい舞台にスローモーションで再現して欲しく、走る速度も遅くなり、ついには舞台を止めてしまった。それが数多く何度も何度も繰り返され、シャッター音が鳴りやまず、一向にドラマが前へ進まない。

 ようやく大河内峠に到着。目の前の主役を引き立てる遥かな遠景。下に見えているのは何と言う町なのだろう。ここまでどのくらい走ったのだろうか? たびたび止まったせいか全くわからない。かなりの距離があったとも思えるが、案外近かった?

 この峠からは登山道もあり、20台ほどの車が駐車してあるが、道中ではあまり会わなかった。これほど紅葉が美しいところもそんなに多くない。なのにこの車の量、信じられない。

 実を言えば私も2〜3日前までは全く知らなかった。これもインターネットのおかげでありガイドブックだけではわからない世界を教えてくれる。これからは皆に知らしめることとなり、人も車も増えていくだろうが、このまま静かなところであって欲しいと思う。

 峠からは簡易舗装のひどいデコボコ道。やがて第二幕が始まった。もはや何も言えない。ただ口をポカンとあけ、何も考えることが出来ず、またまた何度も車を止めキョロキョロ、キョロキョロ。

 容量が四百数十枚のCFカードの残り枚数が100を切っている。いくらデジカメとは言えこれは撮りすぎ? またもカミさんは停車を命じた。これではいよいよ前へ進まない。

 この第二幕の背景には遠景ばかりかゴツゴツとした岩場まで現れた。これ以上なく変化に富んだ風景と素晴らしく色づいた山々、そして紅葉、日本はなんと美しい国なのだろう・・・と改めて実感。

 ようやくその第二幕、春日渓谷も終わりに近づいたようだ。このまま先へ進む予定であったがもう一度この素晴らしい世界を味わいたいとUターン。

 ただこれだけ舞台が止まると本日の終演に間に合うのだろうか? 事実このままでは予約した美ヶ原への到着が遅くなりそうな気配である。

 珍しいことに今日はソフトクリームにもケーキにもお目にかかる機会が無かった。いや昼食も運転しながらパンとおにぎりで済ませたくらいである。白樺湖に差し掛かり、

 「おいしいケーキが食べた〜い。」

 と女王様。ドライブの疲れも癒すべくちょっと休憩したいが、それより少しでも早く美ヶ原に到着しなければ・・・とやむなく通過。

 改めてビーナスラインを登り始めると白樺湖の全景と色付いた周りの山々が美しく見えてきた。

 木が全くない車山はススキが風にそよぎ、なだらかな斜面を覆っている。

 八島湿原は青い水を湛えた小さな池と褐色の草原が夕日に輝き、とても美しい。

 お日様が西に傾き、周りの山も日の陰に隠れることが多くなり、ただひたすらに先へ進む。

 無料開放された三十数Kmのビーナスラインは、これはこれで格好のドライブコースだが、昨年までは全線の通行料金が2900円。これは高い? 美ヶ原が近くなると黄葉もそれなりに見られるが、これなら新緑のシーズンのほうが魅力的かな? ならば値打ち有り?

 早くも夕暮れの風情が漂う4時過ぎ、山本小屋に到着。しばらく待って迎えのマイクロバスで王ヶ頭ホテルへ向かった。

 美ヶ原は平らな牧草地で、たくさんの牛たちがのんびり草を食んでいる。冬支度で里のほうへの移動が始まっており、残っているのは半数ぐらいだそうな。4Kmほどの道はデコボコの地道で車がとても揺れる。

 「なんで舗装してへんねん。」

 と堺生まれの大阪のおばちゃん。これがこの大自然になじめない者の証か?

 林立するテレビ塔と同居する王ヶ頭ホテルは思いのほか立派な建物である。ここが美ヶ原の最高地点で何も30分もかけて王ヶ鼻まで歩かなくてもここからの眺望が最高らしい。ここまでならば誰でも来ることができる。いかに年をとっても、ハイヒールを履いてでも・・・。

 チェックインのあと急いでホテルの裏へ。ケルンが積まれた王ヶ頭では早くもお日様が大きな雲に隠れ、その隙間から照らすわずかな夕日が周りの雲と晴れた空を茜色に染めている。日が沈むと急に寒くなってきた。

 オイオイ、部屋に暖房が入ってないじゃん。スチームの入れ方がわからずウロウロ、ウロウロ。この手の暖房はすぐには暖かくならないのだから、この時期でも最初から入れておいてほしいと思うのはわがままかな?

 食事はまずまず。十分な量にもはや満腹。だが何かの勘違い? 最後のデザートと同時に、

 「忘れていました。」

とその係りである女主人らしきおばさん?が岩魚の塩焼きを運んできた。

 なによ、それ〜・・・一箸つけただけで・・・。給仕をしてくれていた笑顔が可愛い若い女の子の困ったような申し訳なさそうな顔・・・。ここはその子の笑顔に免じ、許すとしますか。最も二人とも川魚はあまり好きでもないことだし、まあ、いいっか・・・。

 部屋の明かりを消すと窓から見えるたくさんのお星様。だが9時過ぎにもう一度見てみると今度はガスで真っ白の世界になっていた。暖房がなかなか効かなかったせいかカミさん、少し風邪気味? いつものように持って来た風邪薬を飲んで早めのご就寝。大事無ければよいが・・・。

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